アフタヌーンの秘薬


「お茶は……好きです」

とはいっても、ほぼペットボトルでしか飲まない。まだ紅茶はカフェでも飲んでいるし家にもティーバッグがあるけれど、日本茶をメインに販売している会社でコーヒーや紅茶が好きですとは言えない。

「そう。浅蒸しが好きかしら? 深蒸しかしら? それともかぶせ茶?」

「え?」

「母さん、梨香はコーヒーが好きだって言ってるだろ」

「龍峯に嫁いでこようとしているのにお茶が全くわからないのでは困ります!」

さすがの聡次郎さんも反論できないようだ。慶一郎さんにいたっては母親の勢いに負けて何も言えないでいた。

「うちのお茶は飲んだことはあるかしら?」

「はい……ペットボトルのお茶は飲んだことがあります。あとは聡次郎さんに淹れていただきました」

「へー、聡次郎が」

これには慶一郎さんが驚いたようだ。

「急須で淹れたのか?」

「悪いかよ。梨香に龍清軒を飲ませたんだよ。それくらいは普通だろ」

聡次郎さんは焦っているようだ。この会社なら急須で淹れたお茶を飲ませるくらい普通のことだと思うのに、聡次郎さんがそんなことをするのはよっぽど珍しいのだろうか。

「既に婚約したということですが、2人の結婚は認められません」

突然口を挟んだお母さんにはっきりと告げられた。

「聡次郎には銀栄屋のお嬢さんとのお話しがありますので」

銀栄屋といえば有名百貨店だ。そこのお嬢さんとの縁談があるなんて私には遠い世界の話だ。

「それは断るって言っただろ。俺は梨香と付き合ってるんだから」