アフタヌーンの秘薬


「失礼します」

慶一郎さんに促されて聡次郎さんの横に座った。お母さんと慶一郎さんも向かいに座り、月島さんはドアの前に静かに立っていた。

「明人が聡次郎に付き合ってる人がいるなんて言うから驚いたよ。お前全然そんなこと言わないから」

「本当に驚いたわ。そんな人がいるならもっと早く紹介してほしかったのにねぇ」

微笑む慶一郎さんと無表情のお母さんに見つめられ緊張で吐き気がしてきた。

「いつからお付き合いしていたのかしら」

「…………」

「聡次郎は仕事ばかりで滅多に家にも帰らないのに、いつ梨香さんと出会ったの? いい縁談も拒否するくらいなのだから相当仲がよろしいのね」

お母さんは笑顔だけれど目が笑っていない。答えに困る私の横で聡次郎さんは足を組んだ。

「梨香はカフェで働いてるんだ。俺はそこの客だったの」

「カフェ? 喫茶店のこと?」

「そう、母さんの嫌いな喫茶店だよ」

『母さんの嫌いな』と強調されて私はますます居心地が悪くなる。私に向けられる視線が痛い。嫌われ役なのは分かっているけれど、こんなにはっきりとお母さんから敵意を向けられたらこの役を下りたくなる。

「梨香さんは日本茶はお好きなのかしら?」

「えっと……」

「梨香はコーヒーが好きなんだよ」

「聡次郎ではなく梨香さんに聞いているの」

口を挟むことは許さない、とお母さんの厳しい口調と目がそう言っている。聡次郎さんは小さく舌打ちをした。実の母親に舌打ちをするなんて聡次郎さんが子供っぽくもあり、仲が悪い親子なのだと理解させられた。