部屋に入ると中には2人の人物が待っていた。応接室だろう部屋の真ん中にはガラスのローテーブルに向かい合ったソファーが置かれ、座っていた2人は私たちを見て立ち上がった。
「は、初めまして! 三宅梨香と申します!」
緊張のあまり自分でも思った以上に大きな声が出た。恥ずかしさで下を向くと、私のすぐ前に立っていた聡次郎さんが後ろ手で私の手を握った。軽く力を込めて手を包み込まれ、すっと力が抜けた。手はすぐに私から離れ、何事もなかったかのように聡次郎さんの腰の横に下ろされた。落ち着けと言われたようで、顔の火照りが引くと前を向いた。
「初めまして、聡次郎の兄の慶一郎と申します」
龍峯茶園の社長だという男性は聡次郎さんと年が離れているようだけれど顔はよく似ていた。目や鼻の形はそっくりだが、聡次郎さんよりは笑顔が柔らかい。そして聡次郎さんよりも少しふくよかな体形をしていた。
「聡次郎の母の裕子でございます」
抑揚のない声で名乗ったのは先代社長の奥様である聡次郎さんのお母さんだ。私の母と同じ年くらいに見えるほど若いけれど、慶一郎さんの年齢を考えると60代じゃないかと思われた。メガネの奥の目は私を探るように頭から靴まで全身をチェックしている。
聡次郎さんはお母さんの視線など気にしないとでも言うように、自分から音を立ててソファーに深く座った。その様子は緊張しているというよりも機嫌が悪いのだということは出会ってからの短時間でわかるようになった。
「聡次郎、お前が先に座るなよ。梨香さんも座ってください」



