「あんな世間知らずなお嬢様はごめんだよ。俺は自分の力で生活できて、同じ目線で笑って一緒に生きてくれる人がいいんだ。俺に黙って従うだけの人じゃなくて」

「強引に従わされてきましたけど。嫌なことも無理矢理やらされたし、ご飯作れだの休日に付き合えだの」

口を尖らせる私に聡次郎さんは「従うけど黙ってないだろ」と言い返す。

「梨香の全部がいいんだ。そのままの梨香が。いつも全力で、弱音を吐いても立ち上がる梨香に俺は励まされてきた」

聡次郎さんがそんな風に私を見ていたなんて嬉しい。

「なんで俺が梨香に婚約者のふりをしてって頼んだと思う?」

「気が強そうだと思ったからでしょ?」

私を強気な性格の店員と勘違いしたからだ。でも聡次郎さんは首を振った。

「それだけじゃないよ。俺が梨香に声をかけた日、カフェの前で梨香がお客さんに話しかけてたのを覚えてるか?」

記憶を辿った。あの日聡次郎さんに出会う前、私はカフェの仕事を終えて帰るところだった。カフェの前で常連のお婆ちゃんに会って話をした。

「思い出したけど……それが?」

「実はあの時からそばで見てたんだ。梨香ももちろんだけど、お客さんも梨香と話すのが嬉しそうでさ。その様子を見て梨香の人柄がわかった。気が強いって話でも、仕事に一生懸命でお客さんを大事にする子なんだろうなって思った」

知らなかった。あの時から聡次郎さんに見てもらえてたんだってこと。