今は奥様と揉めているから元凶である私のそばにいてくれるけど、反発心がなくなり冷静になったら愛華さんの魅力に囚われて、私のことなど見向きもしなくなったらどうしよう。

麻衣さんの妊娠は嬉しいはずなのに、私の居場所がなくなってしまう気がしてとても怖い。自分が最低な人間に思えてきてしまった。










麻衣さんのつわりが酷く、休む日が多くなった。
私の退職日も徐々に近づいてきたある日、花山さんが愛華さんを伴って店に入ってきて息を呑んだ。

「今日から愛華さんにもお店に出ていただきます」

「………」

あまりに突然で言葉を失った。

「えっと……あの……」

「三宅さんには退職までに愛華さんへ業務を教えて下さい」

「よろしくお願い致します」

私に頭を下げる愛華さんに返す言葉が出なかった。
愛華さんは既に龍峯の制服を着ていた。
今から愛華さんがお店にいるということは、他のパートさんが出勤してくるお昼まで2人でお店に立たなければいけないということだ。

「ではよろしくお願いします」

そう言うと花山さんは愛華さんを残して事務所に行ってしまった。

「こちらで働くことになったんですね……」

私は恐る恐る愛華さんに話しかけた。

「はい。麻衣さんがご懐妊とお聞きしまして、先日奥様から代わりに手伝ってとお話をいただきました。花を活けるのと並行してですので、頻繁に本店をお手伝いすることはできないのですけど」