アフタヌーンの秘薬


龍峯のお手伝いというのは今の麻衣さんのように会社の事務仕事を担うという認識でいるのだろうか。愛華さんは龍峯に携わる気でいる。それはつまり聡次郎さんと結婚する気でいるということか。

「あの……私はこれで失礼します」

居たたまれなくなった私は愛華さんにそう告げた。

「ああ、お引き留めしてしまってすみません。いってらっしゃいませ」

笑顔で見送られて逃げるように写真館までの道を早足で歩いた。

愛華さんに会う度に私は自信を無くしていく。龍峯の嫁として、聡次郎さんの結婚相手としては愛華さんのようなお嬢様がお似合いだ。私のような凡人では不釣り合い。
こんな醜い嫉妬なんてしたくないのに。

この夏を乗り越えた私はどうしているのだろう。聡次郎さんのそばにいるのだろうか。



◇◇◇◇◇



龍峯に出勤すると廊下の奥のトイレから苦しそうな声が聞こえてきた。

「けほっ……おえっ……」

あまりに辛そうな様子にトイレの前まで近づいた。

「うぅ……しんどい……」

呟かれた声は麻衣さんのものだった。

「麻衣さん、大丈夫ですか?」

声をかけずにはいられなかった。最近体調が悪いという麻衣さんが心配だった。
トイレの鍵が外され中から麻衣さんが顔を出した。そのあまりの顔色の悪さに私は絶句した。肌が白くて美人の麻衣さんが、今はいつも以上に白い顔で目に生気がない。

「あの、大丈夫ですか?」

「大丈夫……そのうち良くなるから……」