自分でも驚くほど低い声だ。これでは愛華さんは私のことを知らなくても良い印象は持たないだろう。
「確かに賞は何度か頂きましたが、社会に出て自立されている方とは違います。私は働いたことがないんです」
これには驚いた。私の卑屈な態度を気にすることのない愛華さんは恥ずかしそうに下を向いた。
「バイトしたことは?」
「1度もありません。大学を卒業してから父の会社の店舗でアレンジメント講座をお手伝いしただけで、本当に自分の力だけでお金を稼いだことがありません」
そんな人が本当にいるのかと驚いた。愛華さんが大学を卒業したばかりの年下だということも、働いて自分の力でお金を稼いだ経験がないことも。
では花を活ける技術を身に付けたのも、勉強して稽古して生花から花材から全ての資金は親に出してもらって今があるのだ。
羨ましい話だ。私だってコツコツ真面目に働いてきたのに、職を失って非正規雇用の生活。家賃も払えないかもしれないギリギリの生活を目の前のこのお嬢様は経験したことがないのだ。趣味に使えるお金なんて余裕がない。お稽古なんて縁遠い。生きてきた環境がまるで違う。私と愛華さんは違いすぎる。
「この年でお恥ずかしいのですけど……これから龍峯のお手伝いをしていけるのか不安で」
愛華さんは本当に不安そうな顔で花の茎から葉をハサミで切り落とした。



