アフタヌーンの秘薬


聡次郎さんと付き合っていると認知されてからあからさまに嫌な態度をとられることはなくなったけれど、よくは思っていないことはわかる。写真館に私を行かせるのは『専務の恋人』だからではなく、単に店主の話し相手になるのが面倒だからだ。

「じゃあお願いね」

「わかりました」

花山さんは事務所に戻っていった。嫌だけど麻衣さんのためだと思って行くしかないか。
川田さんが休憩から戻ってきたのでカタログを持ってビルの裏から出た。

駐車場の隅には今日もビニールシートが敷かれ、その上で愛華さんが花を剪定していた。愛華さんは私に気づくと「こんにちは」と声をかけてきた。

「お出かけですか?」

「はい……ちょっとそこまで」

相変わらず羨ましいほど綺麗な笑顔を向けられて自分が卑屈になってしまう。

「本店の方は注文も受けに行くのですね」

愛華さんは私の手に持ったカタログを見て言った。

「えっと……注文を受けに行くわけではないんです。私は社員じゃないので……」

「そうなのですか?」

「はい。バイトです……」

自分が社員ではないと言うのは抵抗があった。愛華さんは私のことなんて何も意識していないのに、私だけが勝手に劣等感を抱いている。

「では私と同じですね。いえ、私以上に自立されています」

愛華さんの言葉に首をかしげた。

「私は親の伝でここにいますから」

「でも栄さんは奥様の方から直々に頼まれてここにいるんですよね? 賞を獲られるほど活け花の技術があるとお聞きしました。私とは違いますよ」