アフタヌーンの秘薬


「ここが住みにくいなら別の部屋を探そうか。梨香のアパートでもいいし」

「聡次郎さんにあの部屋は似合わないよ」

「俺は梨香と居れればどこだっていい」

「私のアパートには駐車場ないから不便だよ。駅から距離あるし」

「龍峯の仕事にこだわってないから大丈夫」

その瞬間私は動揺した。聡次郎さんは龍峯からも離れるつもりなのだろうか。私のせいで……?

聡次郎さんは更に真剣な顔で何やら考え込んでしまったから、頭に浮かんだ疑問は怖くて聡次郎さんには聞けなかった。










「三宅さん、写真館に今年のお歳暮のカタログを届けてくれないかしら?」

事務所から花山さんが顔を出し、私に雑用を押し付けた。

「渡すだけでいいの。商品が決まったら後日連絡が来るから」

「いいですが、川田さんが休憩から戻ってきてからでもいいでしょうか?」

「それで結構です」

花山さんは私が渋々引き受けたことに満足そうだ。

付き合いの深い老舗写真館の店主は話好きで、1度訪れるとなかなか帰してもらえない。面倒な客だけれど重要顧客でもあるからいつもなら社員が行くところだけれど、花山さんが私に頼んでくるとは珍しい。

「今日は麻衣さんがお休みだから仕方なくね」

「そうなんですか?」

だから花山さんが私に頼んだのだ。本来なら社長夫人である麻衣さんが行くところなのに。

「風邪なのか、だるいらしくて」

麻衣さんが休みならば自分が行くというわけでもなく、麻衣さんがいないからこそ花山さんは私に都合よく仕事を押し付ける。