「そうだ、忘れるところでした。これ、ありがとうございました」

月島さんがカバンから出したのは以前私が渡したお弁当箱だ。

「ずっと返しそびれていました。聡次郎に渡してもらおうかと思ったのですが、あいつに渡すと僕が怒られそうなので」

「そうですね……」

勝手にお弁当を渡したのは私なのに、聡次郎さんは月島さんにも嫉妬するだろう。きっともう月島さんに何か言った後かもしれない。

「すみません……余計なことをして。聡次郎さん、何か失礼なことを言ってしまったのなら申し訳ないです……」

「まあ嫉妬を向けられるのは慣れてますから。僕もそうなのでお互い様ですね」

「月島さんも聡次郎さんに嫉妬することあるんですか?」

「ありますよ。特に子供のころは多かったですね。聡次郎は勉強もスポーツも、何をやっても優秀で、人を引き付けるものを持っていましたから。羨ましいと思ったこともありました」

今度は私が笑った。

「どうかされました?」

「ああ、すみません……聡次郎さんも同じことを言っていたので」

「え?」

「以前聡次郎さんも月島さんが何をやっても優秀だから勝てないって」

「あいつが……」

「お二人はいいお友達ですね」

私たちは笑い合った。

「僕は三宅さんに感謝したいです」

「え?」

「僕にはお付き合いしている人がいるのですが」

「ああ……」

そうだ、月島さんには彼女がいるのだと聡次郎さんが言っていた。それなのに手作り弁当を渡すなんて彼女さんに悪いことをしてしまった。