スウェットに手をかけられたから慌てて聡次郎さんの体を押し返した。

「ベッドに梨香がいてこの雰囲気……止まんない、無理」

「無理なのは私の方です! お仕事が!」

「休む」

「だめ!」

抵抗する私に観念したのか、聡次郎さんは溜め息をついて私の首に顔をうずめた。

「りかー……」

子供のように拗ねながらも私の首にキスを仕掛けてくる。

「専務、出勤のお時間ですよ」

「役職言って責めるのは反則だ……」

聡次郎さんは渋々私の上から退いてネクタイを締め直した。私は聡次郎さんが離れてくれて安堵した。
私だってこのまま雰囲気に飲まれてもいいと思った。けれど昨夜はお風呂に入っていない。勢いだけじゃなくて、綺麗な体で抱かれたいと思う。

「本当に龍峯を辞めるのか?」

「ああ、うん……本当は辞めたくないけど奥様にも啖呵切っちゃったし、このまま掛け持ちして働いてもまた体調崩しそう。カフェも今人がいないから辞められないし」

今更龍峯を続けさせてくださいなんて言えるわけがない。

「そうか……」

「お茶も好きだけど、カフェで働くのも好きなんだ」

聡次郎さんは残念なような、何かを考え込むような表情をした。

「聡次郎さん、遅刻しますよ」

「ああ、やばいな」

「いってらっしゃい」

「いってきます」

再び別れのキスを交わすと聡次郎さんは出勤していった。

体はまだだるいけれど私の心は晴れやかだ。早く体調を整えて残りの龍峯での仕事を頑張らないと。