龍峯での仕事もカフェの仕事も精一杯やってきたつもりでいた。ミスのない完璧な仕事はできないかもしれないけれど、せめて迷惑はかけないようにと。
でも実際は体調を崩して迷惑をかけている。奥様や花山さんに負けた気がして悔しい。自分で自分の体調を管理しきれなかったことは更に悔しい。
「無理して出勤するなんてお前どんだけ負けず嫌いなんだよ」
「すみません……ご迷惑をおかけして……」
「言っただろ、迷惑だなんて思ってないよ」
私の頭を撫でる手は優しい。それほど私が弱っているということだ。聡次郎さんの優しさが嬉しいし、素直に甘えられることに驚いていた。
「梨香、頑張りすぎてないか?」
「そんなことはないよ」
「無理してるから体調崩したんだろ? 龍峯も辞めたいって言い出すし」
「それは……」
「俺との契約が重荷になってごめん。休みなく働かなきゃいけなくなったよな」
しゅんとなった聡次郎さんは指先で私の髪をくるくると弄ぶ。
「無理に働かせてごめん。嫌な思いをさせて悪かった」
「全然わかってない!」
思わず大きな声を出してからめまいがして、口から大きく息を吐いた。「聞いて」と頭を撫でる聡次郎さんの手を掴んで腕を絡めた。驚いた聡次郎さんは腕を引っ込めるでもなく私の顔を見つめた。
「聡次郎さんが私を信じてくれないことが嫌だった」
霞んだ視界で聡次郎さんの顔を見て必死に訴えた。
「私が好きなのは月島さんじゃない……聡次郎さんなのに……」



