アフタヌーンの秘薬


「これ以上迷惑かけられない……」

「迷惑なんて思うかよ。心配なんだよ梨香が」

ベッドの横に膝をついた聡次郎さんは心配そうに私の顔を覗き込む。珍しいその顔にますます申し訳なさが湧いてくる。

「自分が熱があるの自覚してるだろ?」

「…………」

もちろん自覚している。もう何日も体調が悪かったから、ついに高熱が出たのだと理解した。
反論せずにめくった毛布を自分で口元までかけ直すと、聡次郎さんは微笑んで私の頭を撫でた。

「聡次郎さんが運んでくれたんですか?」

「そうだよ。エレベーターまで抱えてこのベッドまで運ぶの大変だったんだぞ。お前重たいし最悪だったよ」

「重たくない……」

バカにしたように笑う聡次郎さんは、言葉とは裏腹に余裕が感じられた。背が高く程よく筋肉のついていそうな体形だから力はありそうだ。今だって私を軽々とベッドまで載せたのだから。

「もう病院も閉まる時間だし、せめて微熱になるまではここにいろ。落ち着いたら家に送ってやる」

「はい……でも仕事は?」

まだ麻衣さんに早退すると伝えていないし、誰も私がここにいることを知らないかもしれない。

「麻衣さんには俺から言っておいたから問題ない。今日はもう早退したことになってる。さっき店に置きっぱなしのカバンを持ってきてくれたよ」

「そうですか……」

それなら心配ないけれど悔しさで涙が出そうだ。