「梨香さん、最近業務に集中できていないそうね」
奥様の言葉に目を見開いた。
「いえ、そんなことはありません……」
「お客様の注文内容を間違えたり、金額をミスしたそうね」
「それは……」
否定できない。けれど仕事に手を抜いているつもりは全くない。
「今もレジの金額が合っていないそうね」
「え?」
奥様の手には先ほど私が点検したレジのチェック票があった。
「レジのお金が数百円多いの。これはどういうことかしら」
「あの……申し訳ありません」
「謝るのはもちろんだけどどうして間違ったの?」
「えっと……」
「少ないのなら弊社が損をするだけだけれど、多いということはお客様におつりを少なく渡してしまった可能性もあるということね」
そう言われても全く記憶にない。自分ではレジの操作、金銭の授受に問題はないつもりでいた。
「誤差が出たのは申し訳ありません。ですがお金のやり取りを間違えた覚えがありません……」
それに私だけが間違えたわけでもないかもしれない。午前と午後で違うパートさんもレジを操作したのだ。私が全て悪いと言われるのは心外だった。
「従業員の評判も良くないんですよ。龍峯に嫁いでこようという人間がこれでは困ります」
従業員とは主に花山さんからの評価だろう。あの人が奥様に私の悪いことを吹き込んだに違いない。今だってレジ点検票をわざわざ奥様に見せに来たのだから。
「聡次郎との結婚を認めることはできません」
「待ってください!」
私はそれでよくても聡次郎さんがお見合いをさせられてしまう。



