「そういえば結婚式はいつの予定なの?」
「えっと……」
結婚の話題は避けたかった。聡次郎さんとは婚約どころかもう会うことすら気まずい。
「その話は進んでいなくて……」
「そうなの? 聡次郎さんそういうところはズボラだから」
「聡次郎さんの問題でもあるんですけど……」
退職したいと言うなら今しかない。結婚の話が上手く進んでいないことにこじつけて龍峯から距離をおきたい。
「あの……その……」
なかなか切り出せなくて下を向いた。麻衣さんはそんな私を不思議そうに見た。
「もしかしたら聡次郎さんはきっとプレッシャーを感じていると思うの」
「え?」
麻衣さんの言葉が突飛で顔を上げた。
「私と慶一郎さんは結婚してもう10年近くたつんだけど、全然子供ができなくて……」
麻衣さんは悲しそうな顔をした。結婚して長い期間子供ができないのは相当な悩みのはずだ。
「後継者がいないことで、慶一郎さんは私には言わないけれど焦っていると思う。お義母様も私には直接言わないけれど気にされているみたいだし……だから聡次郎さんに強引にお見合い話を勧めていたの」
長男夫婦に子供ができないのなら次男を結婚させて後継者を産ませる。あの奥様なら考えそうなことだ。
「聡次郎さんには申し訳ないと思っていたの。だから梨香さんを連れてきたと聞いたとき私も嬉しかった。聡次郎さんは好きな女性をちゃんと選べたんだって」
「そうなんですね……」
けれどそれは嘘の関係だ。聡次郎さんは私と結婚しないし後継者は産まれない。



