アフタヌーンの秘薬


麻衣さんに退職したいとは言えなかった。今言えば体調以上に心配をさせてしまう。私は一応義弟の婚約者なのだから。

お店に戻りお客様の対応をした。おすすめのお茶を聞かれ、渋いお茶が好みだと知るといくつか商品を選んであげられるくらいには龍峯のお茶を勉強できていた。

フラフラしながら午前中の仕事をなんとか終えた。他のパートをさんも心配そうにしていたけれど、呪文のように「大丈夫です」と言い続けた。

「梨香さん、お昼一緒にどう?」

事務所から麻衣さんが顔を出し誘ってくれた。

「あ、お弁当持ってきてた?」

「いいえ、今日は何も……」

聡次郎さんのお弁当はもう作らないと決めている。そうすると自分のお弁当を作る気が失せた。食欲がないし今日の昼食はコンビニで買おうと思っていた。

「じゃあお腹に優しいお店があるの。行きましょう」

「はい」

麻衣さんに連れられ龍峯から歩いて数分の和食のお店に入った。

「梨香さんにおすすめはお粥!」

麻衣さんはメニュー表からお粥が記載されたページを私に見せた。
お粥だけでも5種類あり、シンプルな味付けのものからスパイスが入ったものまである。

「このお茶粥って……」

「そう、龍峯のお茶を使ってるの。でもこのお店と特別に契約しているものだから、店舗では販売してない食用のお茶なの」

古明橋の企業はほとんど龍峯のお茶を使っているのではないかと思うほど浸透している。
私はお茶粥を注文した。食欲が一切なく何も食べたくないけれど、誘ってくれた麻衣さんに申し訳ないから無理にでも食べなければ。