アフタヌーンの秘薬

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龍峯を退職することに決めた。もう聡次郎さんの近くにはいられない。今では大好きになってしまった日本茶の仕事から離れるのは惜しいけれど仕方がない。興味を持てることが見つかっただけでも私の人生に大きな影響があった。それだけは聡次郎さんに感謝している。

龍峯に出勤すると事務所には麻衣さんしかいなかった。花山さんは午後からの出社だという。
退職したいと言うのなら花山さんよりも麻衣さんに伝えたかったので好都合だ。花山さんに言ったらどんな嫌みを言われるか憂鬱だったから。

「おはようございます……」

「おはようございます。梨香さん、顔色が良くないけど大丈夫?」

「そうですか?」

思わず両手で頬を触った。確かに体はいつも以上にだるいしぼんやりする。今朝は起きるのも辛かった。

「熱は?」

「測ってません……」

「食欲は?」

「あまり……最近ほとんど食べてませんし……」

家に帰っても何も食べないで寝てしまう。朝はヨーグルトのみ。カフェでの休憩も飲み物だけだし、聡次郎さんにお弁当を作っているときも最近の自分のお弁当は少なかった。

「今日は休んでよかったのに。今から帰る?」

「いいえ大丈夫です! 全然動けますから!」

麻衣さんを心配させてしまうことが申し訳ない。早退なんて絶対にできない。奥様に根性がないと思われたくないし、私のプライドが許さない。

「そう? 辛くなったらすぐに言ってね」

「はい……ありがとうございます」