「ん! ……ん!」
腕で押しても聡次郎さんは離れない。ならば唇を噛んでやると口を開いた隙に聡次郎さんの舌が口の中に侵入してくる。まるで支配するかのように荒々しく私の舌に絡みつく。
「っ……やっ……」
キスの合間に抵抗しても言葉にならない。私の気持ちを無視した強引さについに涙が頬を伝った。涙が聡次郎さんの頬にもつき、濡れた感触でやっと我に返った聡次郎さんは唇を離した。
「放してください」
今度は私が冷たく言った。ゆっくりと体から聡次郎さんの腕が離れ、私は乱れた呼吸を整えコートの袖で涙を拭った。
見上げた聡次郎さんの顔も不安で涙が溢れそうになっている。
「私、中途半端な気持ちで聡次郎さんのそばに居ようって思ったわけじゃない……」
ワガママに抵抗しつつも従ったのは聡次郎さんが好きだったから。
「でももうやめましょう……こんな非現実的なことはうまくいかないんです」
「梨香……」
「失礼します」
振り返って玄関のドアを開け外に出た。聡次郎さんは手を上げて私を引きとめようとしたけれど、その手に気づかないふりをした。後ろでドアが閉まっても1度も振り返らないでエレベーターに乗った。
龍峯のビルの外に出て駅まで歩いたけれど、聡次郎さんが追いかけてくる気配はなかった。
これで終わった。
聡次郎さんとの新しい関係は始まってすぐに終わったのだ。



