「明人に?」
「聡次郎さん何時に帰ってくるかわからなかったから、代わりに……」
「明人にあげちゃったってこと?」
聡次郎さんの声は先ほどと打って変わって怒りがこもっている。
「なにそれ。俺のために作ったのに?」
「ごめんなさい……」
「そういうことかよ」
「え?」
急に私を抱きしめる腕の力が弱くなった。
「やっぱり明人が好きなんだ?」
「はい?」
聡次郎さんの言葉が理解できなくて間抜けな声が出てしまった。
「梨香は最初から明人ばっか見てたもんな」
「そんなことは……」
「どんなときも明人には笑いかけて、明人の話ばかりしてきたよな」
先ほどまでの甘い雰囲気が一切感じられない、冷たい声に体が震える。
「そんなことないって! 月島さんのことは何とも思ってないよ!」
負けじと言い返すけれど、聡次郎さんは私の言葉など耳に入らないようだ。
「明人に近づきたいから弁当渡したんだろ」
「そんなわけない!」
「どうだか」
さっきまでの聡次郎さんとはまるで別人。契約を交わした頃の怖い人に戻ったようだ。怒っている理由が子供のようで、どうフォローしたらいいのか戸惑う。
「梨香はさ、俺のことなんて本当はどうでもいいんだろ。明人に近づきたいから俺と契約したんじゃないの?」
「…………」
これは否定できなかった。確かに始めは月島さんとの距離が近づくのではと期待したこともあった。
「今だって実は明人のそばにいたいから俺のことを好きなふりをしてるんじゃないの?」
思わず聡次郎さんの肩を押して離れた。



