アフタヌーンの秘薬





退勤時間の午後8時。閉店作業を終えタイムカードを押し、事務所の麻衣さんに挨拶してビルを出ようとしたときスマートフォンが鳴った。応答すると、聡次郎さんの声が耳に馴染む。

「今本社に戻ってきた」

「お疲れ様です」

心なしかお互いに機嫌のいい声を出している気がする。付き合い始めたというだけでこんなにも変わるのかと驚く。

「会いたい……」

思わず私からそう告げた。

「俺もだよ」

聡次郎さんの優しい声が心地いい。

「もう家にいるから来て」

「うん。行くね」

通話を切ってエレベーターに乗り16階のボタンを押した。途中の階で止まって残業をしている社員が乗ってきたら不審に思われるかもしれないけれど、誰にも邪魔されることなく16階に止まった。玄関のチャイムを押すとすぐにドアが開き、スーツのままの聡次郎さんは私の顔を見るなり腕を取ると中に引き込んだ。

「聡次郎さん?」

玄関に引っ張り入れられドアが閉まると、私の体は聡次郎さんの腕に包まれた。

「会いたかった……」

耳元で囁かれて体が疼く。だから私も聡次郎さんの耳元で「私も、数時間会えないことが寂しかった」と囁いた。

「弁当食べれなくてごめん」

「いいよ。また作ってくるから」

「今日の弁当は夕飯として食べるよ」

その言葉に私は「あ……」と呟いた。

「聡次郎さん……お弁当はその……」

「まさか俺の分も食べちゃったの?」

冗談ぽく笑う聡次郎さんに申し訳なさが増す。

「そうじゃなくて……月島さんに……」