「買いに行くのはお金も時間ももったいないですし、私も無駄になってしまうので食べていただけると助かります……」
「そうですか……ではいただきます」
月島さんはお弁当を受け取ってくれた。
「他の社員とは時間をずらして食堂に行きます」
「そうですか」
「三宅さんと同じお弁当の中身なのがばれたら噂になってしまいますからね」
「それはまずいですね」
私と月島さんに変な噂が立って奥様の耳に入ったら大変なことだ。
「三宅さん、龍峯でのお仕事が順調そうでよかったです」
「おかげさまで、楽しく働かせていただいています」
これは本心だ。お茶は淹れるのも飲むのも楽しいし、ギフト用の包装が綺麗にできたときは嬉しい。
「でも今日は顔色が悪いですね。お疲れですか?」
「いえ……そういうわけじゃ……」
まだ体調は戻らない。休みがないことが体によくないのは分かっているのだけれど、どっちの職場にも休みを言い出しにくい。
「奥様も気にしていらっしゃいます。三宅さんのことを」
「そうなんですか?」
「頑張ってらっしゃることは知っていると思います。このままいけば認めてくださるかもしれません。頑張ってくださいね」
「はい!」
月島さんと笑顔で別れた。
偽の婚約者だったときは奥様に認められようと反対されようと、聡次郎さんの意思に従うだけだからどうでもよかった。でも関係が変わった今、奥様からの評価も重要になっている。



