川田さんも先ほどの聡次郎さんの言葉に疑問を持ったようだ。
「いえ……頼まれたわけではないですけど……」
何と答えればいいのだろう。頼まれたというよりは強制的に働かされているのだ。その事情を川田さんに言うことはできない。
「専務の嘘ですよ。ああ言えば花山さんが黙ると思ったんですよきっと」
「そうなの……まあ、私としてはお茶好きが増えるのは嬉しいわ」
川田さんは釈然としないようだ。けれどこれ以上詮索してこないのはありがたかった。
お昼休憩にはお弁当を持ってこっそりとエレベーターに乗り16階に上がった。
聡次郎さんの部屋のチャイムを押しても応答がない。休憩時間には家に来てと言ったのは聡次郎さんなのに。
せっかくお弁当を作っても専務とバイトでは忙しさが違う。お昼休憩が重なるとは限らないのだ。
ランチバッグをドアノブにかけて置いておこうとしたとき、階段から聡次郎さんが上がってきた。
「あれ、帰ろうとしてた?」
「だって聡次郎さんいないから」
「これでも頑張って早めに帰ってきたんだよ。お昼を梨香に合わせるためにね」
偉そうに言った聡次郎さんは鍵を取り出し部屋を開けた。
食堂で食べるのは私が嫌だった。それなら聡次郎さんの部屋で食べようということになったのはいいけれど、これなら外で食べても同じことだ。わざわざ私の作ったものをここで食べなくてもいいのに。