先生は黙ってる。
また、つらそうな顔。
信号で止まると、ふっと表情が弛んだ。

「ばーか。
ガキが大人の心配すんな」

「いたっ」

なんでもないように笑った先生が、デコピンしてきた。

「なに?
それともキスのほうがよかったか?」

「……先生は意地悪です」

信号が青に変わり、再び車は走り出す。

「いままでだってやってこれたんだ。
平気」

「でも……」

「わかってるんだ、宮野があいつじゃないってこと」

ひとりごとのように呟いた先生の言葉は、そのまま続いていく。

高校生のとき、付き合ってた彼女が病気で死んだこと。
死ぬまで、重病だって知らなかったこと。