「萌花?」

強引に腕の中から抜け出すと、怪訝そうな顔をされた。

「お兄ちゃんは私の気持ちなんて、ちっともわかんないんだ。
私の気持ち、理解しようとか思ってないでしょ?
どこが運がいいの?
あんなことされたの思い出したら、もう普通になんて生活できないよ。
死んでたら、こんなに悩まないですんだ。
でも、死ぬ勇気がないの……」

お兄ちゃんは黙ってる。

胸が苦しい。
息が詰まる。

「もうお兄ちゃんの顔なんて見たくない」

吐き捨てるように云って、玄関に向かって脱いだばかりの靴を再び履く。

お兄ちゃんは追ってこない。

そのまま無言で家を出た。

ポケットの中には定期だけ。

少しでも家から離れたくて電車に乗った。
私の定期には余分なお金なんて入ってないから、降りるのは学校の最寄り駅。