精神的に不安定なのか、夜は眠れない。
悪夢は酷くなるばかりで、薬を飲んで寝ても、悲鳴で飛び起きる毎日。
島津先生のところに行きたいけど、私が先生のところの患者だってバレてて、先生にも迷惑かけてる。

「メシ、あまり食ってないっておばさんが心配してた。
萌花の好きなアイス、買ってきたから食べないか?」

「ありがとう。
でも、あんまり欲しくない」

「……そうか」

私にぎゅっと抱きついてきたお兄ちゃんの手は震えてる。
思い出した日から、いつもそう。
泣かない私の代わりに、お兄ちゃんが泣いてる。

「萌花が生きてるだけでいいんだ。
萌花が生きてて、笑ってくれてればそれでいい」

「お兄ちゃん……」

鼻声のお兄ちゃんに、曖昧に笑って返す。
椛島先生——椛島昌基の被害者は全部で八人。
生き残ってるのは私だけ。

椛島は親の病院から盗み出した麻酔薬を使って、少女を誘拐してた。

一番初めが私。