「萌花?」

怪訝そうにお兄ちゃんが私の顔をのぞき込む。

「お兄ちゃん。
あの、椛島って先生、なんか、……怖い」

がたがたと身体が震える。
きっとこれは、私は忘れてるけど、身体が記憶してる恐怖。

「そういやおまえ、あの先生のこと知ってる気がするとか云ってたな」

「……うん。
なんかそんな、気がする」

始業式のあの日。
初対面な気がしなかった。
私の全身が、あの人を知っていると警告する。

「わかった。
ちょっとあの先生のこと、調べてみるよ」

あたまをぽんぽんしてくれたお兄ちゃんに、思わず抱きついた。
ずっと私が忘れてた恐怖は身体中に染み着いてるみたいで、全然消えない。

「お兄ちゃん。
私はなにを忘れてるのかな」

「それは……」