「どうしてそんな気がするの?」

「わかりません。
でも、なんか思い出しちゃいけないことを、思い出しそうで」

「思い出しちゃちゃいけないこと?」

頷くと、膝の上の両手をぎゅっと強く握る。

「たぶん、……誘拐されたときの」

「そっか。わかった。
今日は気持ちが落ち着くようにお薬出しとくから。
あと、この話はお兄さんにしてもいいかい?」

「……はい」

待合室で待っててね、そう云われて診察室を出ると、今度はお兄ちゃんが入っていった。
一番端の椅子に座って、壁に寄りかかる。

……なんで私は椛島先生を知ってるんだろ。
どうして怖いんだろ。
なにを……忘れているんだろ。

「萌花、帰るぞ」

「あ、うん」