島津先生のところに行くと、夕方だからか患者さんはほとんどいなくて、すぐに診察室に呼ばれた。
今日、学校で倒れたことを説明すると、お兄ちゃんは部屋を出ていく。

いつも、そう。
お兄ちゃんに聞かれたくないこともあるだろ、って。

「過呼吸、かな。
もう苦しいとかない?」

「大丈夫、です」

静かに穏やかな瞳で、島津先生は私を見つめてる。
あの目で見られると、なんでも話してしまうから不思議。

「あの先生、知ってる気がするんです」

「あの先生って、誰?」

「……今日赴任してきた、椛島先生」

思い出すだけでまた心臓の鼓動が早くなっていく。
なんだかわからない恐怖に支配されて、思わず自分の肩を抱いた。

「大丈夫。大丈夫、だよ」

そっと、島津先生が私の両手を握ってくれた。
冷え切った指先に島津先生の体温がじんわりと染みてくると、恐怖も次第に引いていく。