電話を切ってしまえば、また部屋に沈黙が広がった。

静かすぎるその空間。

でも、帰ってきたときみたいな寂しい気持ちはもうなくて。

安心してそのまま眠ることができた。

正人さんの声を聞くだけで、こんなにも安心できている自分がいる。

こうして毎日毎日、幸せを感じながら過ごしている自分は、相当贅沢かもしれない。


そして翌朝、いつもと同じように起床して、学校へ行く準備をする。

今日は少し駆け足気味に準備をして、学校へ向かった。

学校へ着いてすぐ、正人さんに『おはようございます』のメールをする。

これが日課。

『今日も無事、学校に到着しました。今日はこれからすぐミシンを使って縫物を始めちゃいます。正人さんもお仕事頑張ってくださいね!明日は土曜日!デート楽しみましょ』

送信。

「よし、今日も一日がんばるぞ~!」

「おはよっ」

「わっ」

階段を上っていると、いつの間にか背後に涼香がいたらしく、いきなり背中を小突かれた。

危うくこけそうになりながら「もー」と愚痴をこぼす。

「朝からメールしながら、口元緩めてにやにやしながら階段を上るのは危険なのでおやめください」

「涼香こそ、いきなり後ろから小突く行為はかなり危険な行為なのでおやめください」

お互い朝からくだらない会話から始まるのも、日課の一種であります。

ガタンゴトン、ガタンゴトン・・・。

ミシンの教室に近づくにつれて、すでに教室の中に誰かが居るらしい、ミシンの動いている音が聞こえてきた。

教室のドアを開けると、そこには同じクラスの男の子が一人。

上野幸太(うえの こうた)くんが居た。

「上野くん、おはよう」

「おはよう」

簡単に挨拶だけして、私も自分のミシンの場所に。

上野くんはクラスの中でもすごく、まじめくん。

うちのクラスには男子は2人しかいない。

涼と上野くん。

服飾の専門学校ともなれば、男子生徒はごくわずか。

涼は元気タイプ、上野くんは落ち着きタイプで、つり合いそうにない二人なのに、化学反応というか中和というか。

うるさすぎず、静かすぎない。

ちょうどいいバランスで二人は仲良し。

きっと、お互いがお互いをうまいこと合わせているんだとは思うけど。

「真央、ちょっといい?」

「なに?」