名前も知らない彼女のことが頭からこびりついて離れない。


「あー、ほんとどうしちゃったんだろ僕」


何回も何回もあの光景を思い出しては顔が熱くなって胸がドクンドクンと波打つように音を立てる。



気を紛らわせようとしてリビングに降りると母親と妹がテレビから流れる歌声に聞き惚れていた。


「どうしたの、母さん」


「あら、しゅうちゃん。いい所にこれ見てよ。これが全国ナンバー1の合唱ですって。」


それは合唱コンクール全国大会のハイライトでちょうど金賞とった中学校の合唱が流れていた。


「へえ、すごいね」



ソプラノとアルトの綺麗なハモリ。それは合唱をよく知らなくてもうっとりしてしまうほどで自然とお茶を注ぐ手が止まってしまうほど。



伴奏がいったん落ち着いてソロがくる。前に出てくる生徒の手は若干震えていて瞬きが多い。


ああ、やっぱり緊張してるんだ。



なんて思ってたら


「お兄ちゃん!お茶!!お茶!!!」


なんて妹に言われるものだから自分の手を見てみるとコップからお茶が溢れていた。



「もーしっかりしてよ、お兄ちゃん」


「ごめんって、柚香。ちょっと考え事してて」


お兄ちゃんたらっとぷりぷり怒り始める妹を横目にお茶のはいったコップを見つめた。



ゆらゆらと揺れる水面と耳から入ってくる合唱の音はまるで自分の体をぐわんぐわんと揺らしているようで。




気分が悪くなり




お茶を飲み干した。