「しゅん兄ちゃんかもっ!」

「あっ、ぎん!」

玄関に駆け出したぎんを慌てて追い掛けると、誰が来たかも確認せずにすでにぎんがドアを開けてしまっていた。
もしかしたら自分の知り合いかもしれないと一瞬ヒヤリとしたが、ドアから顔を出したのはぎんの予想通りの人物だった。

「ういっす!
おう銀、朝から元気だな」

「しゅん兄ちゃん!」

両手が塞がっている俊に飛び付いたぎんを眺めながら、桜は安堵の溜め息を吐いた。

「あ、はよっす!
すいません朝っぱらから。
あ、これ良かったら…色々子供が好きそうなの作ってきたんで飯の足しにでもして下さい」

どうやらぎんの為に料理を作ってきてくれたらしい。

「俊君…わざわざ有難うございます。
あ、取り敢えずここじゃ何だから上がって下さい」

「あー…今日は俺1人じゃないんすよ。
いいっすか?」

「え?
えぇ…構いませんけど…」

雅也も来たのかと思った桜の目に飛び込んできたのは見知らぬ男達で、桜は俊から受け取った袋を思わず落としてしまう所だった。

「ちわっ!
おっ邪魔しまっすー!」

「へぇ〜、マジでワンコが言う通りの高級マンションじゃん。
俺もこんなとこ住みてぇ〜!」

1人かと思いきや俊の後ろから続々と出てくる男達に、桜はポカンと口を開けたまま、遠慮無しにズカズカと中へ入っていく彼らを見送る事しか出来ない。

「しゅん兄ちゃんのお友達?
遊びに来てくれてありがと〜!」

「え…ぎ、ぎん…?」

雅也の時の様に怖がってしまうんじゃないかと思っていたぎんは、桜の心配をよそにニコッと笑ってそれぞれに愛想を振り撒いていた。

「だってあの銀がお子ちゃまになったっつーんじゃ、見ない訳にはいかないじゃん?」

「とにかく皆、ちゃんと挨拶しないと!
あ、申し遅れました、僕はこういう者です。
以後お見知り置きを」

「は、はぁ…」

差し出された名刺を思わず受け取った桜は、その名刺に書かれた名前を声に出して読み上げた。

「えっと…新井順平さん…?」

他の面々とは違い、1人スーツを着込んだ長身の男が眩しい笑顔で頷く。

「彼らのマネージメントをしております。
黒沢の事で色々とご迷惑をお掛けして申し訳ありません」

深々と頭を下げた新井さんにつられて桜もつい頭を下げる。

「あ、いえ…」

「なーに順ったら、んな立派な事言ってんだよっ!
似合わねぇぞっ!
あ、俺は仲谷、仲谷健一っす。
仲間内じゃケンチって呼ばれてるんで宜しく〜」

「全くだ。
そんな言葉使ってんの初めて聞いたぞ。
あ、俺は戸田圭吾、呼び捨てでいいよ。
それにしても…」

桜を上から下まで見回した戸田と名乗った男がボソッと呟いた。