「ぎんももしもしするぅ〜!」

「ちょ、ちょっと待っててね?」

携帯電話を手にした桜にまとわりつく男…ぎんから少し離れて通話ボタンを押す。
数回のコール音の後、明らかに不機嫌な声が桜の耳に聞こえてきた。

「ふぁい…
銀?
お前起きんの早ぇよ…」

「あ、あの…」

「あ?
あぁ、女かよ。
銀まだ寝てんの?」

「いえ、起きてはいますけど…」

「じゃあとっとと代わってくんない?
あんたには用無いんだからさぁ」

「ねぇ〜、ぎんももしもししたいよ〜」

チラリとぎんに視線を送って、この状況を理解して貰うにはいっその事直接話をさせた方が良い、そう桜は判断を下した。

「じゃあ、代わりますね…?」

桜から携帯電話を受け取ったぎんが目を輝かせる。

これでぎんが演技をしているのか、それとも普段からこうなのか、若しくは本当に何か…異常な事態が起こっているのがが分かる筈だ。

「もしも〜し、ぎんだよ〜!」

演技だとしたら、友達だろうと思われる相手にまでそれを続ける事は無いだろう。

とっとと追い出してやろうと構えていた桜は、携帯電話に向かって相変わらず子供状態のままのぎんに青褪めた。

これは…

「え?
ぎんだよぅ?
…ねぇママぁ、このお兄ちゃん怖い…」

何を言われたのか、先程まで嬉しそうだったぎんの顔は今にも泣き出しそうだ。

「…代わってくれる?」

「うん…」

ぎんから携帯電話を受け取り、少しだけ息を吐いた。

「もしもし、代わりました…」

「どういう事だよ…
銀の奴、何ふざけてんの!?」

やっと今桜が置かれている状況を把握してくれたらしく、電話口からは酷く狼狽した声が耳に届いた。

「私も最初はそう思いました。
でも昨夜からこの調子で困ってるんです。
貴方、彼のお友達なんですよね?
引き取りに来て頂けませんか?
住所は…」