スーパーヤンキー!!

あれから俺達は桜庭の自宅にいた。メモ用紙と一緒に入っていた鍵が桜庭の家の鍵なのか確かめに来たのだ。


「やっぱり蓮の靴箱の中に入ってた鍵は桜庭ん家の鍵だったんだな」


「ああ。でも何で関わるなって言ってる奴がわざわざ自分ん家の鍵を蓮の靴箱に入れるんだ?」


「確かにな。関わって欲しくない奴はぜってぇそんな事しねぇよ。特に桜庭は俺達の事を一番気にかけてたしな」


「何か意図があるんだろうが、それが何なのかさっぱりだな」


俺と郁人が居間のソファーに座って話していると、ふいに、蓮の姿がない事に気がついた。


「あれ?蓮はどこ行った?」


「あ?さっきまでそこのソファーの横に座り込んでたんだけどな」


「まずいぞ。あいつ、あの状態でほったらかすと何しでかすか分かんねぇ。急いで見つけねぇと」


「ああ。俺もそれはよく分かってる」


俺達が立ち上がろうとしたその時、二階からガッシャァァァンという大きな物音がした。俺と郁人は急いで音のした方へ向かう。


音は桜庭の部屋の中からのようだった。俺達が開いたままになっている扉から中に入ると、そこには頭から血を流して座り込んでいる蓮と、壊れたパソコンがあった。


「おい蓮!何してんだ!一体どうしたんだよ!」


郁人がいくら大声をあげても、体を思いっきり揺さぶっても、蓮は反応しない。蓮のこんな姿を見るのはこれで何度目だろうか。とりあえず、俺と郁人は蓮を居間まで運んだ。


蓮をソファーに座らせ、頭の傷を手当てする。そして両隣に俺と郁人が座り、それぞれ俺が右手首、郁人が左手首を掴む。これ以上、蓮が自分を傷つけるところを見たくない。何より、俺と郁人は蓮の過去を知っている。だから今、俺達に出来る事はただ傍にいて、時間が経つのを待つことだけだった。


どれくらいの時間が過ぎたのか、いつの間にか眠ってしまっていた俺は、隣に蓮がいる事を確認し、窓の外を見る。既に、外は暗くなり始めていた。


「あれからかなり眠っちまったみてぇだな…」


まだ少し寝ぼけている頭で蓮の方を見ても、胸が締め付けられそうになる。今朝の蓮の顔が頭から離れない。


「くっそ……どうして俺は……いつも役に立ってやれねぇんだよ……っ!」


悔しさのあまり、涙を抑えられなかった。その涙ですら、俺自身をイラつかせる。その時、


「悪かった」


急に隣から声が聞こえたと思うと、そいつは自分の袖で優しく俺の涙を拭ってくる。


「……蓮。具合はどうだ?」


「何とも無い。そんな事より万冬、お前どうして泣いてる?郁人も俺の左手首を掴んで離さねぇ。俺はまた、お前らに迷惑かけちまったのか……?」


「馬鹿言え。でっけぇ欠伸しちまっただけだ。男がそう簡単に泣いてたまるかよ。それに、俺は一度もお前といて迷惑かけられたなんて思った事はねぇよ」


「……くっ、ハハッ、馬鹿はどっちだ」


「うるせぇぞ。ってか蓮、お前はもう大丈夫なのかよ?」


「ああ。…それより、俺は何をしたんだ?お前と郁人は怪我とかしてねぇか?」


「ったく、怪我してんのは蓮だけだ。心配ねぇよ。でも蓮、お前桜庭の部屋にあったパソコン壊してたぞ」


「パソコン……」


蓮は顎に手をやり、考え込むポーズで俺の顔をじっと見つめてくる。だが、しばらく経っても思い出さないらしい。


「蓮。思い出せないなら無理しなくていい。時間が経てば思い出せる。とりあえず、今日はここに泊まろう。桜庭が帰ってくるかもしれねぇ」


「………………」


「おい蓮?どうした?」


「………何かいろいろ考え過ぎて自分が何してんのか分かんなくなってきた。…俺の名前なんだっけ?」


「いや。嘘だろ!?そんな事あんのかよ!いや、お前はあったな!何度かあったな!いいからとりあえず考えるのやめろ!飯食うぞ!飯!」


「……そうか……で、俺の名前……」


「もういいから考えるなって!」


蓮が首を何度も傾げながらブツブツと何かを言っている。蓮は考え込むと、かなりの確率で自分の名前や自分がしようとしていた事を忘れる。しかもどんなに大事な場面でも。俺は呆れながらも、蓮に対する対応に慣れてきたような気がする。前までは真剣に頭を悩まさせたものだ。


「おいおい…俺が疲れた体を安らかに眠らせてんだから静かにしろよ。せっかくいい眠りについてたっつーのによ」


「ああ、わりぃ。けどな、一つだけ言っとくが、一度安らかに眠っちまった体はもう二度と起き上がってこないんだぞ。天にいらっしゃる神様だっていい眠りにつかれちまったらもう起こすのがかわいそうで起こせねぇんだぞ。だからな、お前はただ寝ていただけなんだぞ」


「そ…そうだったのか。知らなかったぜ。じゃあ俺は天女に認められたって事だな」


「もう訳わかんねぇよ!!!」


寝起きの郁人といつも通り真面目な蓮の会話を聞きながら、俺は思わず叫んでしまった。今朝のあの真面目な雰囲気は一体どこにいったんだ?……まさか
宇宙か!?そんな遠い所までどうやって行こうか?やはり宇宙船か?宇宙戦艦ヤマトか!?……いやいや!正気になれ自分!俺まで何かに侵食されそうになってしまった。危ない危ない。


「ふぅぅぅぅはぁぁぁぁ」


俺はとりあえず思いっきり息を吐いて吸った。こうすると、思考が良くなる気がするのだ。


「何してんだ?もしかして、俺を起こしてくれた天女の生気を吸い込もうって魂胆だな!そんな事この郁人様が許さねぇぞ!」


「いいからちょっと黙ってろよ。腹減った」


俺は立ち上がり、冷蔵庫の中身を確認しに行く。これからの事を考えると、栄養をつけなくてはいけない。俺は肩を落としながらも、冷蔵庫から野菜やお肉を取り出した。明日になれば、今までのように普通に学生生活を送る事は出来ないだろう。俺は直感的にそう感じた。今はもう、蓮達と共に歩むのみだ。