夏休みが開け、始業式も終わってさらに次の日、朝のホームルームで、俺達は耳を疑う事実を突きつけられた。
ガラガラガラと、教室の扉を開けて入ってきたのは担任の頼飛先生ではなく、別の教師だった。その教師は、
「今日は君達に大事な報告があります。静かに聞いて下さい」
そう言って、教卓の前には行かず、ただ俺達の事を怖がった様子で一言だけこう言った。
『桜庭先生は昨日限りで辞職されました』
と。
訳が分からなかった。それはクラス全員が同じように感じた事だろう。特に、俺と万冬と郁人は。
(どういう事だ?昨日の始業式にはちゃんといたし、夜は一緒に頼飛先生の家でご飯も食べた。俺達の事……息子みたいなモンだって、言ってくれて…たのに…一体何が………)
考えれば考える程頭が真っ白になっていく。もうこれからどうやって生きて行けばいいのかわからない。
さっき入って来た教師がまだ何か話しているようだったが、いつの間にか周りの音は何も聞こえない。気づけば、俺は衝動的に走り出していた。
確かめたい。自分の目で。耳で。直接会って聞きたい。でないと納得出来ない。だって…だって昨日の始業式は確かにいたのに。どうして急に…
昇降口の自分の靴箱を開け、怒りと不安で押しつぶされそうになりながら上履きを押し込むと、何かに当たる音がした。
俺は不意に動きを止め、押し込んだ上履きを出して中を見る。そこには、二つ折りにされたメモ用紙とその上に鍵が一つ置いてあった。
メモ用紙を開くと、そこには見知った人物の字でこう書かれていた。
『お前達は事件に関わるな。自分の身を守る事だけ考えろ』
俺は暫く動けなかった。俺を追いかけてきた万冬と郁人が俺の両端からメモ用紙を覗きながら苦い顔をしている。二人共なんだか悔しそうな顔だ。そうだよな。皆、頼飛先生の事信用してたんだ。当たり前だろ。
ぼんやりそんな事を思っていると、誰かに手首を掴まれ、意識を現実に引き戻される。
俺の手首を掴んでいるのは郁人だ。万冬もなんだか悲しそうな顔をして俺を見ている。何だ?どうして俺を見てる?どうして俺の手首を掴む?
何か言葉を発しようとしたが、郁人が真剣な表情で俺を見ている事に訳が分からなくなってしまい、何も言葉が出てこなかった。万冬がそんな俺の反応を見て、さらに悲しそうな顔をした。
「……何だよ。何で…そんな顔してんだ」
やっとの事で声を発すると、万冬が、郁人が掴んでいる方の俺の拳を優しく上から握って言った。
「いいから力抜け。手、痛いだろ」
俺が自分の拳を見ると、手からは血が流れていた。そして拳の中には、先程靴箱に入っていた鍵が血で濡れている。俺は今やっと、自分が鍵を強く握りしめていたのだと気づく。やはり俺は自分が思っている以上に悔しいのだ。そう思うと、余計に感情が溢れ出してしまう。そしてまた、握っている拳に力が入る。手のひらが痛い。でもそんな事どうでもいい。俺の手のひらからすーっと生ぬるい血が流れ落ちた。すると、郁人と万冬が二人がかりで俺の手から鍵を奪い取る。
「くっそ!何で……っっ!」
「とにかく、一回帰んぞ。落ち着かねぇ事には正しい判断なんて出来やしねぇからな」
郁人が俺の手首を掴んだまま歩き出す。教室にではなく、外に。万冬はハンカチで鍵についた俺の血を拭い、郁人に掴まれていない方の俺の手首を掴んで郁人と二人、俺の前を歩いた。
俺は二人に施されるまま、悔しさと悲しみでおかしくなりそうな気持ちをひたすら抑える事しか出来なかった。
ガラガラガラと、教室の扉を開けて入ってきたのは担任の頼飛先生ではなく、別の教師だった。その教師は、
「今日は君達に大事な報告があります。静かに聞いて下さい」
そう言って、教卓の前には行かず、ただ俺達の事を怖がった様子で一言だけこう言った。
『桜庭先生は昨日限りで辞職されました』
と。
訳が分からなかった。それはクラス全員が同じように感じた事だろう。特に、俺と万冬と郁人は。
(どういう事だ?昨日の始業式にはちゃんといたし、夜は一緒に頼飛先生の家でご飯も食べた。俺達の事……息子みたいなモンだって、言ってくれて…たのに…一体何が………)
考えれば考える程頭が真っ白になっていく。もうこれからどうやって生きて行けばいいのかわからない。
さっき入って来た教師がまだ何か話しているようだったが、いつの間にか周りの音は何も聞こえない。気づけば、俺は衝動的に走り出していた。
確かめたい。自分の目で。耳で。直接会って聞きたい。でないと納得出来ない。だって…だって昨日の始業式は確かにいたのに。どうして急に…
昇降口の自分の靴箱を開け、怒りと不安で押しつぶされそうになりながら上履きを押し込むと、何かに当たる音がした。
俺は不意に動きを止め、押し込んだ上履きを出して中を見る。そこには、二つ折りにされたメモ用紙とその上に鍵が一つ置いてあった。
メモ用紙を開くと、そこには見知った人物の字でこう書かれていた。
『お前達は事件に関わるな。自分の身を守る事だけ考えろ』
俺は暫く動けなかった。俺を追いかけてきた万冬と郁人が俺の両端からメモ用紙を覗きながら苦い顔をしている。二人共なんだか悔しそうな顔だ。そうだよな。皆、頼飛先生の事信用してたんだ。当たり前だろ。
ぼんやりそんな事を思っていると、誰かに手首を掴まれ、意識を現実に引き戻される。
俺の手首を掴んでいるのは郁人だ。万冬もなんだか悲しそうな顔をして俺を見ている。何だ?どうして俺を見てる?どうして俺の手首を掴む?
何か言葉を発しようとしたが、郁人が真剣な表情で俺を見ている事に訳が分からなくなってしまい、何も言葉が出てこなかった。万冬がそんな俺の反応を見て、さらに悲しそうな顔をした。
「……何だよ。何で…そんな顔してんだ」
やっとの事で声を発すると、万冬が、郁人が掴んでいる方の俺の拳を優しく上から握って言った。
「いいから力抜け。手、痛いだろ」
俺が自分の拳を見ると、手からは血が流れていた。そして拳の中には、先程靴箱に入っていた鍵が血で濡れている。俺は今やっと、自分が鍵を強く握りしめていたのだと気づく。やはり俺は自分が思っている以上に悔しいのだ。そう思うと、余計に感情が溢れ出してしまう。そしてまた、握っている拳に力が入る。手のひらが痛い。でもそんな事どうでもいい。俺の手のひらからすーっと生ぬるい血が流れ落ちた。すると、郁人と万冬が二人がかりで俺の手から鍵を奪い取る。
「くっそ!何で……っっ!」
「とにかく、一回帰んぞ。落ち着かねぇ事には正しい判断なんて出来やしねぇからな」
郁人が俺の手首を掴んだまま歩き出す。教室にではなく、外に。万冬はハンカチで鍵についた俺の血を拭い、郁人に掴まれていない方の俺の手首を掴んで郁人と二人、俺の前を歩いた。
俺は二人に施されるまま、悔しさと悲しみでおかしくなりそうな気持ちをひたすら抑える事しか出来なかった。

