スーパーヤンキー!!

声の主はすぐに分かった。なぜなら、俺達のすぐそばにいて、どんどんこちらに近づいてきたから。


黒いスーツを着た40代位のその男は、子供に好かれそうな顔をしていた。同時に、怪しい気配も感じる。


その男は俺達の目の前で立ち止まり、俺達を見下ろしながら笑顔で話しかけてくる。


「ねぇ君達、この白蘭中って、不良がたくさんいるって聞いたんだけど、ほんと?」


俺は息を呑む。何も答えちゃいけない。そんな感じがした。だが、郁人も万冬も、何も感じていない様子だ。


いや、この男が自分の怪しい気配も、俺達の危ないと感じさせるような警戒心も消している。やっぱりこの男には近づいちゃいけない。さっきの視線もきっとこの男だ。あんなに近くにいたのに気づけないなんて有り得ない。何かある。絶対に。


「あんた誰?俺ら今から用事あんだけど」


「人に何か尋ねる時はそっちから言うもんでしょ」


郁人と万冬が言い返す。男は笑顔を崩すことなく、右手で頭をかいてから、名刺を差し出してくる。


「いやぁ、ごめんごめん。俺はね、"メンシェンフレッサァ"っていうグループの総司令官やらせてもらってる者なんだ。このグループはまだ世の中の人達にあまり知られていないんだけど、手のつけられない不良達とか、悪さをする学生達を更生させて、社会に貢献していける人間になる為の、後押しをしてあげる仕事をしているんだよ。それで、今はその為のプロジェクトに取り組んでて、君達にも協力してもらえたらと思ったんだ」


「ふーん。それって何か意味あんの?」


説明を聞き終えると、郁人がつまらなそうに言う。だが、万冬はさすがに怪しいと思ったのか、男と少し距離をとった。


「もちろんだよ。だって、不良達や悪さをする学生達がいなくなれば、世の中はもっと良くなると思うんだ。それに、そういう子達が社会に貢献する事で、大人達は未来に希望が持てるだろ?」


「それは大人だけの話だろ。俺達には関係ねぇよ」


「そんな事ないよ。君達だって、社会に貢献出来る人間になりたいと思ってるんじゃないのかい?」


「はぁ?いかにも今の俺達じゃ社会に貢献出来ないみたいな言い方するじゃねぇか。あんた俺達の何を知ってるっつうんだよ」


郁人が男の言葉に突っかかる。でもやはり、男は焦る様子もなく答える。


「うーん、そうだね。確かに君達の事はあまり知らない。でも、周りの人達はよく見てるよ。君、最近、近所のご婦人の胸ぐら掴んで怒鳴ったみたいじゃないか。それを見ていたっていうご婦人方が話してたよ」


「ったく!余計なお世話なんだよ!大人なんて勝手に決めつけてグチグチ陰で言ってるだけだろ」


「まあ、確かに大人にも悪いところはあるよ。でもね、まずは君達が変わらないと周りの大人達も変わってはくれないと思うよ?」


「チッ、もういいわ」


あからさまにイライラしている郁人を万冬がなだめているうちに、俺はこの場からどうやって離れようか考えていた。だが、なかなかいい案が浮かばない。それに、男はイライラしている郁人を見ながら少し喜んでいるようにも見える。そのうえ、まだ俺達から離れようとしない。


「君達も変わりたいと思うなら、俺に連絡くれよ?さっき渡した名刺に電話番号書いてあるから」


まだ何か言ってる。俺は少し気持ち悪くなった。早くこの場から離れないと。この男から離れないと。でも、頭が働かない。早くどっか行ってくれ。誰か……助けてくれ……


俺が後ろに倒れかけた時だった。


「ったく。何サボってんだよ。ちゃんと職員室に来いって言っただろうが」


俺の肩を両手で支え、体が後ろに倒れないようにしてくれたのは、頼飛先生だった。


「急にすみません。何かこいつらに用ですか?」


頼飛先生が言うと、男は笑顔を保ったまま、


「いいえ。もう用は済みました。じゃあ、またいつか会えるといいね」


男はそう言うと、足音もたてずに静かに帰って行く。ほんとに気味が悪い。普通に歩いてるのに足音がしないなんて。でも良かった。また頼飛先生に助けられてしまったけど。


俺は安心して力が抜けたのか、そのまま頼飛先生に全体重をあずけ、意識を手放してしまった。