スーパーヤンキー!!

俺達は部屋を開けて二人を入れると、扉に鍵を閉め、真面目な顔で郁人を見る。


「で、どうしたんだよ?」


「……さっき、菓子買ってここに来る途中で見ちまったんだ……」


「……?」


「……うっ……思い出しただけでも吐きそうになる……っ!」


郁人が今まで見た事がないくらい気持ち悪そうに口に手を当てる。


「おい、ほんとに大丈夫か?一体何があった?」


俺と万冬が心配して郁人の顔を覗き込むと、郁人は口に当てていた手を、ゆっくり離しながら大きく息を吸った。そして俺と万冬を見て話し出した。


「……なんか、変な歩き方してる男がいたから、気持ち悪ぃなと思ってずっと見てたんだ。そしたらそいつ、女と待ち合わせしてたみたいでよ。そのまま人がいないような道に入ってっちまった。俺は酒でも飲んでたのかと思ったんだけど、でもなんか違う気がして、気になったからこっそりあと追いかけたんだ。女もそいつを気持ち悪がってるように見えたし……」


郁人はまた少し気持ち悪そうにした。俺は何も言わず、背中をさすってやる。万冬も、俺と同じように背中をさすりながら郁人に耳を傾ける。


「……その道を、女が前で、変な歩き方してる男が後ろを歩いてた。てっきりカレカノだと思ってたから、全く会話もせずに歩いてるのが不自然だった。しかも、男の方が酔っ払ってたとしたら、絶対でかい声張り上げて叫んだりするだろ?でも、マジで静かなんだよ。何も言わない。それに、男も女もまだ学生だった。制服着てたから。俺はだんだん嫌な予感がして、そこを離れようと思った。でもその時……」


郁人は一度目を閉じ、意を決したように顔を上げる。でも少し、後悔しているような目をして。


「……その時…女の悲鳴が小さく聞こえた。俺はびっくりして後ろを振り返っちまった。そしたら…女が血を流しながら地面に倒れてて、男の手にはナイフが握られてた。その手は真っ赤だった。俺は逃げようと思ったけど、足が震えてうまく動けなかったし、また変な音が聞こえたからそっちに意識がいっちまった…その音は、男が女をナイフで刺す音だった…あれはマジで地獄だ。男は動かない女をずっと、何度も何度も刺し続けてたんだ…それを見て、俺は意地でもこの場から離れたいと思った。早く皆のとこに帰りたいと思った…だから、動かない足を思いっきり殴って、走って逃げて来たんだ。ほんとに恐ろしかった…怖かった…お前らの顔を見て心底安心した…」


そこまで言い終えると、郁人の綺麗な青い瞳からポロポロと涙がこぼれ落ちた。話しながら想像してしまったのか、体もとても震えている。


俺と万冬は二人で郁人に抱きつき、優しく背中や頭を撫でる。


何も言わなかったんじゃない。何も言えなかったんだ。聞いただけでも体が震えだしそうなのに、その場にいたら。なんて考えるだけで吐きそうだ。それは万冬も同じだろう。抱きついている腕が少し震えている。


俺と万冬はしばらく郁人を離さなかった。俺も万冬も、郁人がこんな風に泣くのを初めて見る。だからこそ、ほんとに恐ろしかったのが伝わってきて辛い。俺がその場にいてやれたら、郁人が一人じゃなかったら。そんな事ばかり考えてしまう。


もう今は、時間がどれだけ経っても郁人を最優先させようと思った。