外に出ると、真っ白な空が目に入る。
そうだ、あの日もこんな空だったんだ。

じいちゃんが死んだ日の朝も。


俺の母さんは北海道の出身だ。18歳で東京に上京し、24歳で職場の部下だった父さんと恋に落ち、翌年に結婚。そのまた翌年俺が生まれ、それからだいぶ経った8年後に翔子が生まれた。
家族4人、東京の田舎の方のアパートで仲良く暮らしていたのだが、当時一人暮らしをしていた母さんの父、もとい俺のじいちゃんが病気になり、介護が必要になったので一家で母さんの実家に引っ越してきた。それが、俺が小5で翔子が2歳の時。

あの時は体が弱かった翔子に両親はつきっきりで、極めて健康体の俺には構ってくれない事がよくあった。
そんな時、俺と遊んでくれたのがじいちゃんだ。
病気とは言え、まだその時は元気だったじいちゃんにいつも勉強を教えてもらっていたし、沢山の昔話を聞かせてくれた。

じいちゃんが息を引き取ったのは夜中だった。みんなが寝静まってる時に静かに1人で、たった1人で、天国へ行った。

俺が朝ごはんを持って、じいちゃんの部屋に入った時にはもうすでに亡くなっていた。
肌に触れた時、それがあまりにも冷たくて驚いた。最初はただ寝ているだけだと思ったが、その肌に触れた瞬間もうこの世の人じゃないんだと実感して、涙が溢れてきた。

じいちゃんが死んだ。その事実が俺を暗闇に突き落とした。暗闇で鍵を閉められて、そこからもう出れないような気さえした。

じいちゃんはいつだって優しくて強くて物知りで。でも、いつもどこか寂しそうだった。
じいちゃんは俺にだけ、写真でしか知らないばあちゃんの話をしてくれた。
嬉しそうに目を細めるけどいつもその目は空を見ていた。そして、寂しいとつぶやく。

病気になってからは、目に見えて体が小さくなっていたじいちゃん。
じいちゃんが小さくなるのと比例して俺はどんどん成長していく。それは俺がじいちゃんの骨を、肉を、命を吸い取っているようにも見えた。
いつだって、母さんや父さん、俺も翔子も、じいちゃんの側にいてあげていたはずなのに、俺にはじいちゃんが一人ぼっちに見える時が何度もあった。
俺はじいちゃんを1人にしたくなくてなるべくそばにいた。
歩けなくなった時も喋れなくなった時もずっと側にいた。
なのに、死ぬ時まで1人ってそりゃあないよ。
最後までそばにいたかったよ。
まだ暖かいうちに、手を握っていたかったよ。

俺はこれから先もずっと、最期に一緒にいられなかった事を、じいちゃんを1人にさせてしまったことを、悔やみ続けていくと思う。

空が白いといつもあの日を思い出し、涙が出そうになる。
俺は一生この空を好きになれない。