キッチンに入り、味噌汁の入った鍋に火をつけ、味噌汁が暖かくなるまでの間に洗面所に行って顔を洗う。朝はなるべく効率よく動かねばならない。味噌汁が熱すぎると猫舌の妹に悪いので、弱火に設定した。
「おはよ、お兄ちゃん」
タオルで濡れた顔面を拭いていると後ろから声がした。
「おはよう、翔子」
妹の翔子はすっぴんなのにまんまるで大きな目を俺に向ける。
すっぴんでも充分美人なのに、いつも翔子は化粧をして学校へ行く。
ファンデーションでニキビを隠して、なるべく自然なマスカラを塗って、まつげをあげる。あ、あのまつげをあげるやつ、なんて言うんだっけ。
以前、先生にバレない化粧の仕方を熱弁された時に言われた事がある。まぁ俺には一生縁のないものだから別にいいか。

俺は翔子の分の味噌汁も盛ってあげた。今日は玉ねぎがたっぷり入っている。
炊飯器を開けて、ご飯も盛る。朝からそんなに食べれないから俺のも翔子のも茶碗の半分くらいの量で。
次はインスタントコーヒーと粉ミルクの入ったマグカップにお湯を注いだ。毎朝、必ず熱々のお湯がポットに入っているからボタンを押すだけでマグカップの中身が茶色い液体に変化した。良い香りが鼻を撫でる。