僕は母さんが天国で見てくれていると信じて、勉強も空手も今まで以上に頑張った。
母さんの言う「良い子」になれてるかどうか分かんないけど精一杯頑張った。
みんなが嫌がるトイレ掃除当番も真っ先に手を上げていたし、
クラスでの成績が正直簡単すぎると思えてきた僕は、父さんに頼んで塾に通い始めたりもした。
良い子になる為だけに必死に頑張っていたら、僕は次第にクラスから浮き始めてきた。
最初は些細な事。
下駄箱の中に「ガリ勉キモい」や「チビ」と書いてある紙が入っていたり、
教室のゴミ箱を見ると、僕の教科書やノートが捨てられていたこともあった。
でも僕はそれを先生にチクったりなんかは絶対にしなかった。
我慢することが1番偉いと思っていたから。
まぁ我慢はしていたけれど、正直クラスからの嫌がらせがしんどい時もあった。
だから夏休みに入った時は開放感でいっぱいで、毎日が幸せだった。
毎日、勉強と空手だけしてればいいのだから。
勉強と空手をしている時だけは嫌なことは忘れられた。母さんが近くで見てくれてる気がしてたから、どんなに暑くても頑張れた。
「あっちゃんは、偉いね。すごいね。」って母さんの声が聞こえてくるようだった。
そして、この頃から父さんは、夜になると家を空けるようになった。
今思えば、真由さんと会っていたのだろう。
でも父さんは僕を絶対にほったらかしにはしない。
レトルトや弁当だけどちゃんと夕飯は用意してくれたし、必ずお風呂に入れてくれてから出かけていた。
父さんが夜いないことなんかより、僕は新学期が日に日に近づくのが嫌で嫌で仕方がなかった。
でも1人の夕食は、やっぱり少し寂しかった。
そして夏休みが終わり憂鬱な始業式の日。
僕が教室に入ると、なにやら賑わっていた。
話を聞いていると、どうやら今日は僕らのクラスに転校生が来るらしい。
なんだ。僕には全く関係のない話だ。僕はそう思っていた。
始業式の後、2年生だけが多目的ホールに集まり、噂の転校生の挨拶があった。
転校生、緊張するだろうな…2年生全員が注目する中で挨拶しなくちゃいけないんだから。
なんて思っていたけど、先生の後ろから姿を現した彼は全く緊張している様子はなかった。
「○○小学校から来ました。田中智司です。よろしくお願いします!」
…これが智司との出会いだった。
智司はみんなより少し背が高くて明るい茶髪がよく似合っていた。
後に聞いた時に「これ、地毛なんだ。へへ」と嬉しそうに話していたのを今でも覚えている。
そして、綺麗なエメラルドグリーンの瞳をしていた。
智司は明るくて面白くて、すぐにクラスの人気者になった。
テレビではやってるギャグをしてみたり、いつも楽しいことを思いついては、周りに披露していた。
だから智司のまわりにはいつも人がいっぱいだった。
智司は誰にでも平等だから、クラスで浮いてる僕にも積極的に話しかけてくれた。
僕はいつも素っ気ない返事しか出来なかったけど、単純に
”なんていい人なんだろう”って思っていた。
僕も明るい人間だったら、智司と仲良くなれたかもしれないなぁ。
そう、当時は思っていたくらいだ。
そんなある日。
僕が机の中を見たら、また僕の教科書がなくなっていた。
先生には「忘れました」と嘘をついた。
今回は「敦也は忘れ物が多いなぁ」って笑って許してくれたけど、毎回毎回誤魔化せる訳じゃない。
また次、物を取られたら……これからどうしようか考えていた。
だが、日に日に嫌がらせは酷くなるばかり。
体育の時間には砂を投げられ、
音楽の時間にはリコーダーを盗まれ、
悪口が書いてある紙は何度も下駄箱に入れられた。
僕が何をしたっていうんだ。
僕はおまえたちに迷惑など、何1つかけていないはずだ。
もう、学校行きたくないなぁ…
母さん、許してくれないかなぁ…
だんだん弱気になってきた。
こんな自分は嫌いなのに、もう立ち直る元気もなかった。


