吐く息が白い。商店街を歩いていると、もう29日だというのにまだ”新年大売り出し”と書かれた店が何件かある。

僕は、新年のセールに行った事がなかった。
人混みが苦手ってのも勿論あるが、洋服にあまり興味がなかった。
普段買うより安いってのは、確かにお得だし惹かれる理由は充分分かるけど。
そういえば、智司は安くてオシャレな服を見つけるのが得意だった。「これ、いくらだと思う?」って嬉しそうに聞く智司に、僕はいつも思ってるよりだいぶ高い金額を言う。智司の嬉しそうなしてやったり顔が見れるからだ。

ヒューっと風が吹く。
地面の落ち葉が風に舞って、遠くに消えてった。それをなんとなく目で追う。
僕は寒いのが苦手だ。でも、冬は大好きだ。

「今日、僕の親友の誕生日なんだ」
店に貼られたポスターが風で剥がれそうになっている。僕はそれを一瞬見たが、すぐに目線を横に移して話し出した。
「へぇ…」
すぐ横で、香織が答える。
僕は半年前から交際している香織と大学から駅までの道のりを歩いていた。

「だから、今日は僕んちで誕生日パーティー」
ん、っと伸びをする。なんとなく、筋肉が鈍っているのがわかる。
”久々に運動したいなあ”
あ、独り言のつもりだったが声に出ていた。
ふっと香織が噴き出す。
香織は相変わらず綺麗だ。横顔だけでも整った顔立ちってのがよくわかる。
「てか」
「ん?」
「19歳にもなって誕生日パーティーなんてするの?男のくせに」
香織は口を手で押さえながらくすくす笑う。
「毎年恒例なんだ。小学校から毎年欠かさずやってる」
「へぇ…」
あ、なんだかあまり興味なさそう。
「ってことで、色々材料買って帰るから家までは送れないけど。気をつけて帰ってね」
俺は香織の頭を撫でようとする。
香織はそれを素早くかわし、答えた。
「ハイハイ。智司くんがバイト終わるまでに準備しなきゃだもんね。急がなきゃ」
はぁとため息をつく香織。
ん?そんなことより
「僕、今日祝うの智司だって言ったっけ?」
ええと、たしか。話していないはず。

「敦也が親友って言う人は、智司くんしかいないよ」
”ま、会ったことはないけど…”
香織はそう呟いて髪をくるんっていじりながら下を向く。
「はは、そりゃーごめん。本当自慢の友達なんだ。いつか香織にも紹介するからな」
僕、そんなに智司の話ばかりしてたかな。ま、いっか。
「香織、ちゃんと無事家帰ったらメールしてね。心配だから」
ふと香織の耳を見たら真っ赤になっていた。
季節は冬。こんなに寒いのにいつもミニスカで寒そうな格好ばかりしてる香織の頭に、俺は自分の被ってたニット帽を耳が隠れるぐらいまで被せてやった。

「なにこれ、ダサい」
香織はほんと素直じゃないなぁ。
「いいから被っててよ。大事な彼女が風邪引いたら大変だからさ」
「……ありがと」
香織はうつむいてマフラーで顔を隠す。
照れてるのかな?

「あっ」
気付いたら、もう分かれ道だった。
香織は真っ直ぐ歩いて駅に向かう。
俺は右のスーパーに向かう。

「それじゃあ。帰ったらメールだよ?」
僕は大事な彼女の頭を優しく撫でてやった。
よし、今度はちゃんと撫でさせてくれた。

「わかってる!しつこい!バイバイ!!」
顔がほんのり赤い。寒さだけじゃないようだ。本当素直じゃないなぁ。


僕は香織の姿が見えなくなるまで、その後ろ姿をずっと見つめていた。

「小さいなぁ。ちゃんと誰かが守ってあげなくちゃ」

方向を変えてスーパーに向かった。
今日の料理はご馳走だ。ふふっ。

それに、久しぶりに智司に会える。年甲斐もなく、スキップしてしまいそうだ。