その男はある日現れた。 何気ない学校の階段。 そのタイミングを狙っていたかのように。 私は振り返った。 この男の罠にハマってしまったのだ────。 「どうしたの、柚那」 そう親友の赤桐桜羅(あかぎりさくら)に言われた。 「ん、何でもないよ」 口ではそう言っても、 心は何でも無くなかった。 一瞬にして捕まった私の心。 名前も知らない。 声だって知らない。 顔しか知らない貴方を好きになる私はきっと馬鹿。 でも、その男が私の心を離そうとしない。 こんな感覚初めて。