手紙はポケットにしまいこんだ。
便箋に落ちた涙で、インクが滲んで、読めなくなってしまった。






「沙、夜?」

あれから幾日かたって。
『沙夜』という人を忘れた。
『沙夜』が誰かは分からなかったけど、大切な人を忘れた気がした。

「ど、どうしようっ。」

「どうしたんだよ?」

「大切な人を、名前を、忘れたんだよ!思い出さなきゃ!思い出さないと…………」