授業が終わった。
移動教室から教室へ戻る途中の廊下で私は、沙凪とルカにたずねた。
「ねえ...」
「なーに、由宇。どーしたの?」
「実はさ...聞きたいことがあってね」
「...ん?」
「沙凪と、ルカは...
未宙が誰と付き合っていたか知ってる?」
空気が一瞬、重くなる。
一時期、私は未宙が亡くなってしまった時にずっと泣いてばかりいた。
...だから、いつも“未宙 ”の名前が出た時はみんな私を気遣う。
「...あっ。
未宙のことだからってそんなに気を遣わなくていいよ」
「...あっ。...ごめんね。
うーん。私は、未宙の彼氏が誰だったか知らないなぁ...。」
「沙凪ちゃんは...?知らない?」
「ごめんねー、知らない...。
あっ...ねえ結局さ、由宇って亮太センパイと付き合ってるの?」
「うん。実は付き合ってるんだ。」
「まじっ?!由宇すごいじゃん!!
いいなぁ〜っ!!」
いいなぁと言いながら飛び跳ねるルカと沙凪。
なんだか、嘘ついているみたいで複雑だ。
だけれど、これは仕方がないこと。
亮太センパイを傷つけないためにも私が“未宙 ”になりきるしかないんだ。
もちろん、亮太センパイが私を“ 未宙”だと思っていることは誰にも言えない。
友達である沙凪とルカにも言えない。
この気持ちのまま、お昼休みの時間になった。
私と沙凪とルカはいつも通り、3人で学校内にある食堂へ向かった。
...と、ラーメン2杯のったおぼんを持っている亮太センパイの姿があった。
これは声をかけるべきなのかな...。
「ねぇ〜由宇。
行ってきなよっ!」
ルカが声を弾ませながら言う。
「えっ...でも...。」
「私達のことは気にしないで...ね。」
そう言って沙凪が私の肩をポンポンっと叩く。
なんか、亮太センパイが本当に私の彼氏みたいに思えてくる。
亮太センパイのもとへかけよる私に気づいて、センパイが振り向いた。
...目と目が合う。
────なんだろう
この感じドキドキする...。
目と目が合っただけなのに、顔まで赤くなる。
その姿に亮太センパイが、微笑んだ。
目を細めながら
「一緒に食べよ。未宙。」
と爽やかに言うセンパイ。
“ 未宙”か...。
まあ、この名前の呼ばれ方も慣れるしかないよね。
未宙のためにも、亮太センパイのためにも私は良い事をしているのだから。
未宙はきっと、亮太センパイの傷つく顔を天国で見たくないはず。
────だから...。
「りょーちゃんっ。
ラーメンのびないうちに食べよっ。」
なりきるしかない。
未宙が亮太センパイにどんな話し方をしていたのかは分からない。
けれど、
「うん。そうだな。
ラーメン食べようなっ!」
とても眩しい笑顔で、そう言う亮太センパイを見たら...私、未宙になりきれてたのかな。
私が亮太センパイの隣にいるだけ。
だけれど、センパイは私が隣にいると笑顔になってくれる。
ラーメンがとても温かくて...
友達と食べるラーメンとはひと味違った。
隣に座っているのはセンパイ。
ラーメンをすする時に肩と肩がぶつかる。
その度に、無邪気な笑顔を見せてくるセンパイ。
...だめだ。
センパイに恋をしてしまいそう。
ラーメンを食べて、この気持ちを誤魔化さなきゃ...。
一緒にラーメンを食べただけなのに、
この昼食の時間がとても楽しいものだと感じた。


