センパイ、私は由宇です…。



...そう思っていた私に亮太センパイが笑顔で話しかけてきた。



「んじゃ、未宙。動物園行こっか!!」


「うん!!」

デートは、動物園かぁ...。

動物園なんて行くのは1年ぶりだなぁ。



「そういえば、未宙は...確かキリンが好きだったよね?」



「うん!!キリンが好きだよ。」


思わず棒読みになってしまった。

...キリンかぁ。

確かに未宙は、キリンが好きなんだけれど私はあまりキリンが好きではない。



私は、キリンよりもミーアキャットのほうが好きなんだけれどなぁ...。




「あれ...?
キリン本当は、好きじゃないの?」



「えっ?!」


動揺する私の顔を覗き込むセンパイ。


「なんか...無理してる...?」



「無理なんかしてないですっ!!」


...あっ、やっちゃった...。


また敬語になったぁ(泣)。



「未宙、なんか今日ヘンだよ?」


そう言って亮太センパイは、私のおでこに触れた。



「あっ。熱は、ないみたいだね」



「だから、りょーちゃん!心配しすぎだよ(笑)」



「...そりゃ心配するよ。
だって未宙は俺の彼女じゃん?」



照れくさそうにセンパイはそう言った。


私は、“ だって未宙は俺の彼女じゃん?”を、
“ だって由宇は俺の彼女じゃん?”に変えて、そのセリフをセンパイの声で脳内再生した。



幸せだな。


本当に幸せ。



動物園には、私達以外にもカップルが3組くらいいた。



そのカップル達が手を繋いでいる姿を見て、亮太センパイが私の手に触れた。




「俺らも手...繋ごう?」



「うん。」



何回もセンパイと手を繋いだはずなのに、毎回ドキドキする。



自分の心臓の音が周りにも聞こえているんじゃないかってくらい、ドキドキしている。




「あ...。
未宙の大好きなキリン発見!!」



そう言って子どもみたいにキリンがいる方を指さす亮太センパイの姿。





私は、キリンよりも亮太センパイが好きなんですけれど...。




でも、亮太センパイは、未宙がキリンを見て喜んでいる姿を見たいよね...。




「わぁ〜!!私が大好きなキリンだ!!」



そう言って、携帯を取り出し私はキリンを撮っているふりをして隣にいるセンパイの横顔を撮った。




亮太センパイの笑顔ゲットした!!


この写真は、私の宝物。



ふふっと笑う私に、亮太センパイも笑う。



「未宙が喜んでくれて良かった...。」



「だってキリン大好きだもん。」



「そっか。」



...気のせいかな。


なんだか、
亮太センパイの表情が寂しげに見える。



最初は、気のせいだと思っていた。


でも、よく亮太センパイの表情を見ているとお昼ご飯を一緒に食べたり、オソロイのキーホルダーを選んだ時も寂しげな表情をしていた。




帰り道に、亮太センパイの寂しげな表情をどうにかしたくて...




「りょーちゃんとオソロイのキーホルダーが持てて嬉しいよ!!」


って言った。



「ありがとう」


と、微笑んでくれたけど

よく見ると悲しそうな“ 目”をしていた。





家に帰って、今日買った亮太センパイと、オソロイのかわいいキリンのキーホルダーを見つめた。






...寂しげなその表情。



亮太センパイ...、


もしかして私が未宙じゃないって心のどこかでは気づいているんじゃないのかな。



もしかすると...、

本当は、私を見た時から私が“ 未宙じゃない”ことは分かっていたのかもしれない。





...だとしたら、

私はどうしたら良いのだろう。



亮太センパイが前にきちんと進めるように、

私が未宙じゃないって事を...

私の口からハッキリ言った方が良いのかな。




ハッキリ言ったほうがセンパイの為になるよね...。



でも、
まだ私は亮太センパイの隣にいたい────。