この頃の私は未来の事なんて知るわけもなく…



普通に恋をして…
普通に友達と遊んで…



できればそんな生活を送りたい…。


でも今の私にはできない。


過去が私の邪魔をする…先になんて進めない…。


こわいんだ。人と関わるのが…。

だから一人でいい…。
今は一人がいい…。



なんの取り柄もない私。でも夢がある。


「歯科衛生士」になりたい。


もともと地味な私はかわいい制服を着て、治療に不安を抱える人に安心感をくれる…


そんな誰かの役に立てる仕事がしたかった。


だから部活はせず、勉強に専念したくて帰宅部。


こんな私の名前は…佐藤 あかね 名前も普通…


人見知りな私の唯一の友達…川瀬 りこ…


私とは逆で明るくて、誰とでもすぐ仲良くなれる。

「うらやましい…」

その一言。


とにかくプラス思考‼
話し上手‼
気配りもできて…
さらさらの髪の毛にキレイな肌…


本当に「うらやましい」の一言。


鏡の前に立つ。
まだ新しい制服…
着てるというより切られてるような。
そんな感覚。


いつもの通学路。
桜が風に舞う…
「キレイだな…」独り言。
ふわふわ舞う薄ピンクの花びらは私を優しく包んでくれている気持ちになる。



変わらない毎日。
変わらない景色。


変わったことといえば…なんとなく夏の香りを時々感じること。


心地いい風…

朝のこの時間が好き。

「キレイだな」


だよね‼なんて心の中で返事してみた。

後の方で聞こえた声。

「聞いてる?キレイだな」


彼女と朝からケンカでもしたのかまた言ってる…。

青春っていいね…。


「佐藤 あかねさん、聞いてる?」



えっ…私?


言葉が出てこない。
予想外だから。
私に話しかけてくる人がめずらしいから。
無視もできないし、「はっはっはい…」
噛んでしまったよ…。



春の心地よい風が君の髪を揺らす。
クスクスと笑うその顔は愛しく感じた。
一瞬で恋をしてしまった…。
これが一目惚れ?ってヤツ?
恋をした事なんてない私はその気持ちも見ない振りした。


叶うはずない。
私をからかっているだけ。

…っていうか誰?
どこかで会ったかな…
記憶にない。

「同じクラスだけど」

見た事ないね…。学校始まって3日だよ。
知るわけないし。

何て言ったらいいかわからないから「はじめまして」
なんて言ってみた…。


また笑われた。


はいはい…
地味な私をからかって楽しんでいるわけだ。
居るんだよね。迷惑な人。


イライラした私は「からかわないで‼」
朝から大きな声をだしてしまった。


だってね…いちいち笑うから…そういうのいっぱい過去にあったから…だから頑張って知らない人ばかりの学校選んだの。

いい思い出もあったよ…。
でも私は辛い事の方が多かった。



勝手に化粧されたり、紙染められたり、彼氏まで勝手に決められて…。
私を変えようとしてくれていた気持ちはありがたい。
だけど、求めてないの…。
「嫌‼」なんて言えない…一人になっちゃう…


挙げ句の果てに勝手に決められた彼氏には一言。
「飽きた」
破局…。無理やり奪われた初めて。

恋なんてこりごり。
相手に合わせて、言うこと聞いて、意味もなく抱かれて…
勝手に満足されて…。

それが恋なら私、二度といらない。


疲れるだけ…。

だから意味もなく絡まないで欲しかった。


今のペースを乱して欲しくないから。


「ごめん‼そんなつもりじゃ…」


はいはい…お決まり…。



「ずっと声かけたかった‼」

心にもない事を…。

「一人にして。一人がいいの。ほっといて。」


私はそう言って走り出した‼



せっかくいい気分だったのに…最悪。

走ったからいつもより早く学校に着いた。

暇だから窓から登校してくる人の姿を眺めてた…。

色んな人いるなぁ。
楽しそうな人から会社勤めみたいな人。
デートに来てるみたいな人。
私みたいな人。

…あいつ…

やめた‼
外見るの。

せっかく忘れかけてたのに…

またイライラしてくる。

同じクラスとか言ってたし、見たくないから机に戻って顔を伏せた。


基本一人…。

りこは彼氏に忙しいし、気まぐれに私の所に来るくらい。
だから調度いい。
深くは関わらない。
その近すぎない関係が私には合ってる。


学校は勉強する場所。

出来たらもっとはじけたい。

でも…邪魔をする過去…。
友達と放課後遊んだり、彼氏だってほしい…。
本当は…。

でも前の学校で学んだの…。
私は黙っていればいい事も…。
彼女という名の都合のいい女も…もう嫌だよ。

だから踏み込めない。
踏み込まないように自分を止める。

それでいいと思っていたよ…。

あなたが手を差しのべてくれるまで…。

信じていいの?
甘えていいの?

わからない…わからない…

この迷路みたいに先が見えない道で私は何を見つけられるだろう…。