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俺を下ろして、周りを偵察していたとき、

俺の見えない場所で銃声がきこえた。



音が鳴り止み、痛くなるような緊迫のなか、

彼がひょっこりと戻ってくるのをみて、

俺は冷や汗がどっと出るのと同時に、

ため息をついた。



これが何度目かわからない。



その度に彼は苦笑するのだった。




また別の場所で偵察しようとして、


「見てくる」


彼がそう言った後、

ざわりと胸が鳴り、


嫌な予感がした。



彼の弾は、もうそろそろ切れるはずだ。



ダメだ行くな…



そう言おうとした時、

敵兵の3、4人がこちらに向かってきた。



彼はとっさに銃を取り出し、

撃ったが、


予感通り、弾切れだった。



敵兵は、無抵抗の彼を、

長剣で滅多刺しにした。



彼の身体から、血しぶきが飛び散る。



悪夢のような、光景だった。



なす術もなく、叫ぶと、

敵兵は振り返った。



彼は、その一瞬の隙を見逃さなかった。



ズタズタにされた身体が倒れる前に、


全ての力を振り絞って、

懐から唯一の武器である手榴弾を取り出した。



引き金を引き、

彼自身の真下に投げるその直前に、

俺の方をみて口元が動いた。














目の眩む閃光とともに、

衝撃音が鳴った。



爆風が俺を襲い、

その勢いで遠くまで吹っ飛ばされた。



一瞬、意識を失ったが、

直ぐに目を覚まし、地面を這って、戻ろうとする。



どうしようもなく震える手で、

地面を引っ掻く。





違う。



違う。こんなはずではない。





そんな、バカなことがあってたまるか。



だって、だってお前は。



お前には、


仲間に託された命があるはずで、


迎えに行く恋人がいるはずで、


明るい未来があるはずだった。



それらを胸に、写真一枚で食いしばってきた。



初めて涙を見せたあの夜は、

ついこの間じゃないか。




こんなはずじゃない。




喉が熱くなり、目がかすむ。



地面に雫がぼたぼたと落ち、砂の色が変わった。



全身の痛みを忘れて、這い続けた。





爆心地とみられる場所に着いた時、

身体の全ての力が抜けた。



彼の遺体はどこにもなかった。



手榴弾は、彼の骨すら焼き尽くしたのだ。



そばにいた敵兵も跡形もなかった。



黒焦げの焦土をみて、

煙をみて、

手を伸ばした。




そして、


彼の優しい笑顔を思い出し、


彼の本気の涙を思い出し、

彼の静かな物言いを思い出し、



空を虚しくつかんだ指先を、


もう届かない指先をみて、



1人、慟哭の叫びを上げた。