岩陰に隠れながら、

彼は胸のあたりをギュッと掴む。



「気分が悪いのか?」



俺が小声できくと、

彼は首を横に振った。



「そうか。」



俺は周囲に目を配り、

自分の手榴弾を手に取った。



「おい、それを今使うのか?」



「今使わないでいつ使うのさ」



今、俺たちは敵に囲まれている。



「お前、一つしか持っていないのだろ?」



「その一つを出し惜しみをして、ここでくたばれってか?」




俺は、口で引き金を引いてから、

敵の足元に投げとばした。



そして、その爆破と共に、

煙の合間を縫って、彼と逃げた。




まだ終わらないのだろうか。


この戦争は。



まだ戦わなければならないのだろうか。


俺たちは。



この戦場に、いくつの死体が転がっているのだろう。



そのなかで、俺は何人殺したのだろう。



かつての仲間は、どれくらいいるのだろう。



彼らは、何を思って死んでいったのだろう。





何も考えられなくなったとき、

彼が腕を引いた。


「もう大丈夫だ」


俺は、ハッと振り返った。



血だらけの彼をみて、

そして自分自身の腕も血だらけなのをみて、

俺は叫んでいた。



彼は、俺を抱きしめた。



正気と狂気の境目が、

紙一重になっていた。