sidemisa





はぁ、とため息を吐いても理央の耳には届いていないようで欲しいおもちゃを眺める子供のように理央は窓辺でずっと例の先輩を見ている

恋に落ちやすい性格なのは知っていたから簡単に好きな人が変わることは目に見えていたのだけれどこうも簡単に心変わりされるとこちらもつい呆れてしまう

まぁ、でも何か叶わない恋なんて言って悩んでた理央が嬉しそうに楽しそうにキラキラと目を輝かせてグラウンドを見つめているのだから良いかな

けれどそろそろその先輩から目を離して美沙の方を向いて、いつもみたいにくだらないことで笑って楽しくお喋りをしたいのに理央は全く美沙の方を見向きもしない





「美沙、あの先輩の名前知らない?」

「え?」

「美沙なら、知ってるよね?清川先輩と仲良い先輩ぐらい知ってるよね?なんて名前なの?教えて?」





やっと美沙の方を向いたかと思えばあの人の話、もちろんファンクラブまで出来ている程の人気な先輩の交友関係ぐらい大体把握しているし理央の好きになったって言っているあの冴えない先輩の名前だって性格だってもちろん知っているけれど理央に本当のことを教えるのは少し勇気がいるだから





「えー、美沙も分からない〜そんな先輩のことまで知らないって〜!大体あの人普通科の人じゃん!特進科から落ちたキヨ先輩ならまだしもあの人たちって元から普通科でしょ?美沙頭悪い人嫌ーい!」

「そっか、そうだよね、流石に美沙も普通科の人を把握するほど暇じゃないよね、変なこと聞いちゃってごめんね」






本当のことを教えてしまったら美沙のことなんてどうでも良くなってしまってその人のところばっかり行ってしまいそうだし、あの先輩のことを教えるのは今の理央に取って少し酷かもしれない、だから嘘を吐いた

ほらまたそうやって美沙はその人のことを思って嘘を吐いているのにそれさえも偽りで固められていって中身はどんどん真っ黒になっていって、なのに大好きな理央は美沙の我儘を、美沙の意地悪を、笑って誤魔化して切なそうな顔をするんだ

もっと美沙には頼ってくれて良いのに
もっと美沙のこと信用して信頼して欲しいのに
美沙、お願いって理央には我儘言って欲しいのにずっとそばにいるのに素直になれないのは私も理央も一緒





「ばーか」






頭は良い癖して隣にいる人のことは全然理解出来てないんだから、本当に馬鹿、私も馬鹿、素直に一緒に居てって理央に我儘言えたら良いのに、でも理央には幸せにもなって欲しいから、美沙のお願いが全部叶うことは難しいなんて分かっているからせめてから最善の道を進んでほしい

だから仕方ないから美沙も少しだけ手伝ってあげるけど好きなら自分で掴まないと他人に握らされた運命を握ったってそのうち消えてしまうだけなんだからちゃんと自力で掴んで離さないでね

再来週の中間テストが終わったらちゃんとまた相談乗ってあげるからそれまでは遠くにいる近くの人を目に焼き付けて離さないで、どんな結末があっても私は理央のそばにいるから