side Rio






私の好きな人は画面越しにいる







と言っても2次元のキャラクターではなく
普通にTwitterで出会った1つ上の男の子
ユーザー名は『怪盗レトルト』

レトさん、レトさん、と周りに呼ばれているから私もフォロワーさんに習って彼のことをレトくんと呼んでいる

変わった名前だな、と思ったのが第一印象で
多分好きなゲームの系統が同じでフォローされ
私もフォローを返すとすぐにリプが飛んできた
その日から会話が途切れることもなく
SkypeのIDも交換し電話もするようになった





でもまだ顔を見たことはない






それでも私は彼のことが好きだし
彼も私のことを好きだと確信している
恋人関係ではないけど心地の良い友達関係
俗に言う友達以上恋人未満、そんな関係だ

君が家に帰ってから夕ご飯までの僅かな時間
おおよそ30分ぐらいしかないのだけど
少し鼻声で可愛らしいその声を聞くために
今日も懲りずに何回かコールをかける




「もしもし?」
「もしもし、おかえり」
「ただいま、今日も部活疲れたわ〜」
「テニス部だっけ?お疲れ様」






こんなくだらない日常会話を電話越しでする
部活してバイトしてゲームばかりしていて
テスト前は基本一夜漬けで赤点ギリギリ常習犯
私と君は似ているところばかり

猫を飼っていて花粉症で万年鼻声
声だけ聞けば美少女と男子に言われるアニ声
君と私の似てないところも勿論沢山


少しの時間しか電話出来ないって分かっているのにくだらない会話ばかりしてしまう
ネットの関係なのに画面越しにいる人なのに
すぐ側にいる人みたいで楽しくて落ち着く

いつかはこの人と実際に会ってデートをして
告白して付き合って喧嘩して結婚して
子供を産んで団欒が似合うような家族になって
2人でおじいちゃんおばあちゃんになったあと
レトくんと同じお墓に入るのだと
勝手に想像してはまたにやけてしまう






「あ、飯出来たから電話切るわ、じゃあね」
「う、うん、また明日ね、あのね」
「おん、おやすみ」





プツリと切れてしまった電話の画面
見るとやっぱり少し虚しくなる
あのね、の続きをいつも言えない
彼を引き止める勇気も足りない





好き。と想いを伝えてしまったら
ネットの関係から何かが変わるのか
本当の恋人関係になれるのだろうか


妄想ばかりの私はまだ現実を知りたくないから
まだ、また一歩踏み出せず
君との通話履歴の画面を見ては
ため息ばかりの今日を終える


好きな人なんて言っておきながら
本当は好きなんだと勘違いしているだけで
全然好きじゃなかったり会ったら冷めたりして
あの時の自分は馬鹿だったんだな、と
いつか誰かとこんな話で笑うのかもしれない





「好きな人、か」





それはやっぱり君しかいなくて
どんな顔かも分からないから想像だけど君で
女子高校生向けの雑誌の恋愛欄も
全部レトくんの名前で埋まってしまうほど










それぐらい君が、好き