「爽築!」


「署内なんだから名前で呼ばないで。」



ガサ入れで少々疲れた声の爽築を呼ぶ喝宥は、対照的に何故か元気だ。



「火災現場の実況見分だっだみたいね。遺体、捜査対象者って聞いたけど。」


「ああ。粉飾決算と横領の疑いで追っていた最中でさ、最悪だよ。」



クラウドファンディング社長、蕪櫃烟炸(カブキ エンザク)とその部下、垳薪繭蒸(ガケマキ ケンジョウ)が、失火した蕪櫃烟炸の自宅兼事務所から焼死体で発見された。



「ジエチルエーテルっていう薬品が原因らしい。捜査の手が及ぶことを恐れて証拠書類を燃やそうとして誤って失火したんだろう、というのが火災調査官の見立てだ。」



蕪櫃烟炸の自宅兼事務所を何度も訪れていたのが、垳薪繭蒸だけだったのも決め手の一つ。


証拠隠滅の相談でもしていたのではないか、と近所のもっぱらの噂だ。



「それとさ、蕪櫃烟炸がパトロンになっていた美術家…っても売れない画家なんだけど。そいつがまさかの同級生だったんだよ。ひたすら絵ばっか書いている暗い奴だったってハルが覚えていたんだけど、俺全くでさ。でもそいつも死んだって。なんでも毒クラゲが原因らしい。」